財布から出す現金だけでなく、ネット上の買い物なども含めて私たちは日常で特に意識せずに当たり前のようにお金を使っています。
このお金を使うという行為については、行動経済学や行動心理学といった観点から分析することもでき、FPなどの業界では「行動ファイナンス」という分野で扱われることがあります。
この回ではお金に関する行動を心理学的な側面から論じてみたいと思います。
行動ファイナンスにおけるお金の心理学
金融分野においては人がお金を使う、あるいは投資するといった行動に関して心理学的側面からアプローチする分野があり、これを行動ファイナンスといいます。
行動ファイナンスにおいて、人は必ずしも合理性のない行動をとることがあるとされています。
以下でお金にまつわる人の行動特性についていくつか挙げてみましょう。
債務比率と時間割引率
まず、時間割引率とはどういうものか例を挙げて見ます。
例えば今1万円もらえる権利と1年後の将来に2万円もらえる権利があるとして、あなたならどちらの権利を取りますか?と聞かれたとします。
経済合理性を追求する立場では、当然1年後に2万円をもらうほうが金銭的メリットが大きいのでそちらを選ぶはずです。
数字的には二倍の利益ですから、銀行預金で1万円を2万円にする苦労を考えれば断然うま味が強いと分かります。
しかし実際には将来の2万円よりも今の1万円を選ぶという人もかなりいるはずです。
このような行動を積極的にとる場合「時間割引率が高い」と表現します。
時間割引率が高いとはどういうことかというと、例えば1年後の2万円に対して、「今18000円貰えるんだったらいいよ」というAさんがいて、「俺は14000円だったらいいよ」というBさん、「俺は1万円でもいい」というCさんがいたとします。
この場合、一番時間割引率が高いのはAさんです。
上の例では2万円から最大限割り引いた1万円で満足するからです。
行動ファイナンスでは債務比率が大きい(借金が多い)人や喫煙者の人が時間割引率が高いとされています。
多少損をしても目先の利益を優先する性向が強いということで、常に借金がある人は経済合理性のない行動をとりやすいとされています。
「後悔の回避」
より投資に近い心理として「後悔の回避」があります。
後悔を避けたがる心理バイアスをいい、例えば利益が出ている株と損失が出ている株がある時に、どちらを売却するかと考えた時、多くの投資家は利益が出ている方を売却し、損失が出ている方の売却を避けると思います。
これは損失を確定させたくないからで、例え損失を被っている株が今後も値下がりを続ける予想が強くてもなかなか売れないことが多いです。
いわゆる塩漬け株で悩んでいる投資家はかなり多いと思いますが、投資家心理としては行動ファイナンスの理論で説明がつきます。
このように塩漬け株を売れずに長期間保有する一方で、利益が出ている株を売り急ぐ行動を「ディスポジション効果」と言います。
「心の会計」
心の会計とは、小分けされた項目に意識を取られて全体の損得がみえなくなってしまう効果のことを言います。
例えば、株式投資においては全体の利益を考えるべきであるところ、売却益と配当を別々に考えてしまい保有株式から得られる全体のリターンから目が離れてしまうことがあります。
またせっかく分散投資によってリスクの回避ができていたのに、個別の投資商品の動向に注意を取られてしまい、強い値動きに影響うけて売り急ぎが生じるようなケースはよくあります、
これによりその銘柄の値動きが実態とは異なり急激な乱高下をみせることもあります。
行動ファイナンスで取り上げられる一例はこの辺にして、次の項からは生活者目線でライフプランやお金の管理、使い方などについて考えてみたいと思います。
人生100年時代におけるお金の使い方
近年、人生における幸福という意味でウェルビーイングという言葉が使われるようになっています。
お金に関する方面を特に意識して金融ウェルビーイングとか、ファイナンシャルウェルビーイングと言われることもあります。
一昔前は教育を受ける学生時代、働く現役世代、引退して余生を過ごす世代と単純に区分けされていたのですが、近年における人の人生はそのように単純ではなくなってきました。
人それぞれに人生のおくり方があり、高齢になっても働き続ける、学び直しをするといったことが普通になされる時代になっています。
一つの会社に最後まで勤め続けることも一般的ではなくなってきた現代において、「会社と社員は一蓮托生」「会社が社員を守ってくれる」といった概念はすでに消滅しています。
自分の人生は自分で築く姿勢が絶対に必要で、資産を築き、運用し、老後に備えるのは自己責任の時代に入っています。
日本の社会制度を考えると、一般的には65歳くらいまでの現役時代にお金を貯め、且つ運用し、そこから平均寿命あたりの80歳くらいまでを運用+取り崩しで賄い、これを過ぎたあたりからは取り崩しによる生活設計に移行するのが一応のセオリーとされています。
高齢期になると認知症の問題なども入ってくるので複雑な運用は難しくなりますから、その前までに資産を築いておくことが大切になります。
ちなみに、投資信託などの商品運用においてはライフサイクル型ファンドというものがあり、これは人生の各段階に合わせて投資商品を変化させて運用する考え方です。
一般に、高齢になるにつれてリスク許容度が下がってくるので、年齢が増すにしたがってリスクの高い商品の比率を減らし、低リスク商品の比率を高めるという運用を用います。
若い時にはリスクを取って積極的な投資が勧められるということですが、若い時分に気を付けたいのがお金の使い方です。
お金に翻弄されて人生を棒に振る若人のニュースを聞くたびに悲しい思いをするこの頃です。
上で見たようにお金に余裕のない人ほど目先の利益に捉われて、簡単に借金をしてしまう傾向にあるので、次の項では個人の資金調達と消費行動における注意点について見ていきます。
個人の資金調達と注意点
今は簡単にお金を借りられる時代になっていて、その手段も多様化し、かつ手間などのハードルもかなり下がっているので誰でも簡単に借金ができてしまいます。
基本的に、事業者が行う借り入れは、これを原資として事業を行い、新たな価値を創出してさらに大きなお金を生み出すものですから、事業が上手くいくことを前提にすれば悪いことではありません。
しかし消費者が行う借金というのは基本的に消費的行動に充てられるもので、そこから新たな利益を創出するものではありません。
端的には借りたお金で食料を買って、食べて消費してしまえばそれで終わりです。
新たな価値(資金)は生み出されないので、返済に困ってしまうわけです。
今はキャッシュレス決済が浸透していて、プリペイド方式や後払い、即時払いなど多様な方法を選択でき、心理的にも借金のハードルは相当下がっていると思われます。
消費者の方は、各種ローンの利点だけでなくリスクも考えて自らの行動をコントロールする必要があります。
若い人ならクレジットカードを持っていない方が不思議とされるほど、社会に浸透していますね。
お金を使う(支払う)感覚が薄れるため使い過ぎにはよくよく注意しなければならないのはもちろんですが、一定回数以上の支払いには10%程度~の手数料負担がかかります。
また気軽に借りられるキャッシング機能にも注意を要し、キャッシング手数料の負担が発生することと、返済のプランニングを立てた計画的な運用が求められることに留意しましょう。
返済についてはリボルビング払いについて注意喚起をしておきます。
リボルビングはカードローンやカードを利用した買い物をする際に選べる返済方法です。
毎回の返済額が一定のため家計の管理がしやすいというメリットもありますが、利用を繰り返すと返済の総額や返済終了までのスケジュール管理がしにくくなり、これが元になってさらに借り入れをしてしまうこともあります。
リボルビングは見た目以上に管理が難しいので、利用は短期に抑えるのがベターです。
上で見たように借金が多い人は時間割引率が高いとされています。
余裕がない人ほど目先の利益に捉われてしまい、長い目で見た利益を失ってしまったり、思わぬ落とし穴にはまってしまう危険があります。
個人による消費的な借金はぜひ計画的な利用に努めてください。
人生の三大資金を意識しよう
自身のお金の使い方について、浪費ぐせや家計管理ができないなどの事情を抱えている人は、ぜひ人生の三大資金について意識してください。
人生で必要となるお金は膨大で、無駄遣いはできません。
人生の三大資金は老後資金、住宅資金、教育資金の三つです。
浪費癖があってなかなかお金を貯められないという人は、例えば財形住宅貯蓄制度や財形年金貯蓄制度を使って強制的に資金を積み立てることができます。
教育資金は奨学金制度などもありますが、自己資金による積み立て機能を用いるには学資保険を活用する手もあります。
老後資金は財形年金制度の他に話題のiDeCoやNISAを活用することもできます。
老後資金という面を考えれば、高齢期の資産形成を意識したiDeCoの方がお勧めです。
支出に対して心理的なハードルが低く、ついついお金を使ってしまうという人はこうした制度も活用して人生設計を図ることを考えてみましょう。
まとめ
本章ではお金に関する心理や行動、お金の管理や運用に関する注意点などについて見てきました。
行動経済学や行動心理学などはファイナンスの領域にも取り入れられており、人の行動に関して一定の納得性をもたらしてくれます。
借金を目の敵にするわけではありませんが、消費的行動のための借金は基本的には避けるべきものですので、必要最小限に抑えるようにしましょう。
お金に振り回されないよう、計画的な支出入のバランスを考えてください。