一定の規模で事業展開する会社になれば従業員を抱えているのが普通です。
従業員は被雇用者として会社の就業規則に服し、指揮命令を受けて業務に従事します。
この従業員について、様々な事情から個人事業主への転換が検討されるケースもあります。
従業員の個人事業主化は色々と問題が生じやすく注意が必要ですが、メリットがあることも確かです。
本章では従業員を個人事業主扱いにするとどうなるのか、メリットやデメリット、注意点などを解説していきます。

従業員と個人事業主の違い

個人事業主

従業員は会社に雇われる被雇用者で、労働契約法や労働基準法など個別の法律によって定義が若干異なるものの、概ね「賃金を対価として受け取り、会社に使用される」立場の人を指します。
従業員は経営者に対して立場が弱くなりがちですが、上記のような労働法の適用を受けられるので、その保護を受けることができます。
しかし会社に使用される以上、就業規則に従う必要がありますし、会社に指示される仕事に従事することや就業時間を守るなど多くの規制や縛りを受けます。
個人事業主は会社に雇用されるものではなく、仕事をする場合は発注会社との関係で委任や請負という形で業務を行うことになります。
発注会社の就業規則に縛られることはなく、また発注会社から直接指揮命令を受ける立場にないので、仕事の進め方や時間配分なども基本的に自由に決められます。
一方で労働法の適用を受けないので、その保護を受けることはできません。

大手企業における導入例

大手企業における導入例

従業員の個人事業主化はいくつかの大手企業で実例があります。
例えば計測機器メーカーのタニタでは、希望する従業員を個人事業主に転換し、自社の業務を発注するということを実施しています。
個人事業主となった元従業員は就業規則に縛られることはなくなり、他社の仕事も請け負うことができます。
自由な働き方を望む社員には需要があるとのことです。
また電通では早期退職プログラムの意味合いを兼ねて従業員の個人事業主化が行われました。
自社を一旦退職して個人事業主となった元従業員は、電通の関連会社と一定期間業務委託契約を結べる内容で、退職後の仕事受注を約束して転換が行われた形です。

一般企業でも早期退職プログラムとして検討できる

一般企業でも早期退職プログラムとして検討できる

従業員の個人事業主化は実務的に難度が高いため十分な検討と準備が必要ですが、一般の中小の事業者であっても不可能ということはありません。
中小企業では早期退職プログラムとして導入する所も少数ながらあります。
ただし規模はごく小さいもので、何年かに一度、数人程度から相談を受ける程度にとどまります。
注意が必要なのは会社が一方的に個人事業主になる事を強制することはできないということです。
あくまで双方合意の上でなければならず、基本的には従業員側から個人事業主になりたいとの希望を受けて相談に乗ることになるでしょう。
個人事業主への転換は収入の不安定化を招くことになるので、基本的に従業員は個人事業主への身分転換を積極的に望むことは少ないです。
会社側から積極的に働きかけるには、早期退職プログラムの一環として退職金の割り増しや個人事業主に転換した後の業務発注を約束して働きかけることが有効です。

個人事業に転換するメリット

個人事業に転換するメリット

ここでは従業員を個人事業主扱いにするメリットを見てみます。

①社会保険料の負担が減る

個人事業主は会社との雇用関係が切れるので、社会保険料の会社負担がなくなります。
年金などの会社負担はかなり大きいので、これが無くなるのは利点です。

②人件費の固定化を避けられる

毎月決まった給料を払う必要が無くなり、仕事がある時に発注することで済むので固定費の削減につながります。

③プロの自覚を持ってもらえる

やる気のない従業員は仕事の精度も悪くお荷物になりがちです。
個人事業主は仕事の完遂が求められるので、プロフェッショナル意識を持って仕事に臨んでもらえます。

個人事業主に転換するデメリット

個人事業主に転換するデメリット

①細かい指揮命令ができない

個人事業主に対して発注側企業は細かい指揮命令ができません。
お願いされた仕事を完遂するのが個人事業主の仕事ですが、仕事の進め方については基本的に会社からの拘束を受けません。
仕事をする場所や時間などは発注会社が具体的に指示することができず、受注者側に任されます。

②優秀な人材が他社に流れる

個人事業主は特定の会社だけと付き合うことを強制されず、自分で取引相手を選ぶことができます。
優秀な人材が個人事業主になると、元の会社とは付き合いをなくして条件の良い他社に流れてしまう可能性があります。

従業員を個人事業主扱いにする際の注意点

従業員を個人事業主扱いにする際の注意点

個人事業主は会社から従業員のような拘束を受けない立場です。
もし個人事業主に転換した後も以前と同じような働き方をしているようであれば違法行為(偽装請負)となってしまいます。
例えば契約上で細かい指示命令を出して強く拘束し、個人事業主が業務の進め方について決定権を持てないような場合は偽装請負となる可能性があるので注意が必要です。
人件費の削減などを目的にして形だけ個人事業主にかえるようなことは許されないので、この点は注意してください。
仮に従業員側が望んでいる場合でも偽装請負は違法です。
各地の労働局は偽装請負の摘発に力を入れて通報の受付などを行っていますので、違法行為とならないように注意してください。

まとめ

本章では従業員の個人事業主扱いにすることのメリットやデメリット、注意点などを見てきました。
従業員を個人事業主扱いにすることで固定費が浮き、会社のスリム化が図られるので、お互いに合意の上であれば検討しても良いと思います。
ただしリーガルリスクは注意が必要で、形だけの個人事業主化は違法行為となることは知っておきましょう。
実際に個人事業主化を検討する場合は社会保険労務士などの専門家に相談すると安全です。