会社を経営する社長やオーナー経営者の方から、「自分にも年金はもらえるのだろうか」「会社員時代とは仕組みが違うのではないか」といった疑問をよく耳にします。結論から言えば、社長にも年金はあります。ただし、会社員として働き続ける人とは、加入する制度や将来受け取れる金額の考え方にいくつかの違いがあります。この記事では、社長の年金制度の基本的な仕組みから、会社員との違い、そして老後に向けてどのように備えていけばよいのかを詳しく解説します。
目次
社長も厚生年金・国民年金に加入している

まず押さえておきたいのは、株式会社などの法人の代表者である社長は、法律上「会社に雇用されている労働者」ではなく「会社役員」という立場になるという点です。しかし、役員であっても、法人から役員報酬を受け取っている場合には、原則として厚生年金保険と健康保険に加入することになります。これは一般の会社員と同じ仕組みであり、社長だからといって年金制度そのものから外れるわけではありません。
日本の年金制度は「国民皆年金」と呼ばれる仕組みで成り立っており、20歳以上60歳未満のすべての国民は国民年金(基礎年金)に加入する義務があります。そのうえで、会社員や法人の役員として給与や役員報酬を受け取っている人は、国民年金に上乗せする形で厚生年金にも加入します。つまり社長も、会社員と同様に「国民年金+厚生年金」という2階建ての年金制度に加入しているのが基本形です。
ただし、個人事業主として会社を設立せずに事業を営んでいる場合は話が異なります。個人事業主は厚生年金の対象外であり、国民年金のみに加入することになります。この場合は、将来受け取れる年金額が厚生年金加入者よりも少なくなる傾向があるため、後述するような追加の備えがより重要になります。
会社員と社長の年金の違いはどこにあるのか

社長と会社員がどちらも厚生年金に加入するとはいえ、実際に受け取る年金額や将来設計の考え方にはいくつかの違いがあります。
報酬の決め方が年金額に直結する
会社員の給与は労働の対価として市場相場や会社の給与規程に基づいて決まりますが、社長の役員報酬は会社の利益状況や税務上の判断、資金繰りなどを踏まえて経営者自身が決定します。厚生年金保険料や将来の年金額は、この報酬額(標準報酬月額)に基づいて計算されるため、役員報酬を低めに設定している社長は、結果として厚生年金の受給額も少なくなる傾向があります。特に創業間もない時期や、会社の利益を内部留保や事業拡大に回したい時期には、役員報酬を抑えるケースが多く、それが将来の年金額に影響します。
在職老齢年金の仕組みに注意が必要
会社員も社長も、60代以降に年金を受け取りながら働き続ける場合には「在職老齢年金」という仕組みが適用されます。これは、年金と給与(または役員報酬)の合計額が一定の基準を超えると、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止になるというものです。社長の場合、会社の業績次第で役員報酬の水準を柔軟に調整できる立場にあるため、年金の受給開始年齢が近づいてきたら、役員報酬の設定と年金額のバランスをあらかじめ検討しておくことが重要になります。
退職金制度の有無
会社員の場合は、勤務先に退職金制度があれば、年金とは別に退職金を受け取ることができます。一方、社長自身が経営する会社から自分自身に退職金を支給する場合には、株主総会の決議や税務上の適正額の判断など、会社員の退職金とは異なる手続きや注意点があります。役員退職金は将来の生活資金として大きな役割を果たすため、年金と合わせて計画的に準備しておく価値があります。
社長の年金が少なくなりがちな理由

前述の通り、社長の年金額は役員報酬の設定に大きく左右されます。特に中小企業やスタートアップのオーナー経営者に見られる傾向として、次のような理由から年金額が想定より少なくなるケースがあります。
一つ目は、会社の資金繰りを優先して役員報酬を低く抑え続けてきたことです。事業拡大期には利益を再投資に回したいという判断は経営上合理的ですが、その分だけ厚生年金保険料の納付額も低くなり、将来の年金額に反映されてしまいます。
二つ目は、厚生年金保険料には上限(標準報酬月額の上限)が設けられているため、役員報酬が非常に高い社長であっても、年金額が報酬に比例して際限なく増えるわけではないという点です。
三つ目は、個人事業主として事業を営んでいる期間が長い場合、その期間は国民年金のみの加入となるため、厚生年金部分の年金額が積み上がらないという点です。
このように、社長の年金額は会社員以上に本人の経営判断によって変動しやすいという特徴があります。だからこそ、公的年金だけに頼らない将来設計を意識しておくことが大切です。
公的年金に加えて備えられる制度

社長が老後資金を厚くするために活用できる制度はいくつかあります。それぞれの特徴を理解し、自社の状況に合わせて組み合わせて活用することをおすすめします。
小規模企業共済
小規模企業の経営者や役員を対象とした共済制度で、毎月の掛金を積み立て、退職や廃業の際に共済金として受け取ることができます。掛金は全額が所得控除の対象となるため、節税をしながら将来の資金を準備できる点が大きな魅力です。
個人型確定拠出年金(iDeCo)
社長を含む多くの人が加入できる私的年金制度です。毎月一定額を拠出して自分で運用し、60歳以降に年金または一時金として受け取ります。掛金が全額所得控除の対象となるほか、運用益が非課税になるという税制上のメリットもあります。
企業型確定拠出年金・確定給付企業年金
会社として制度を導入することで、社長自身を含めた役員や従業員のために年金を積み立てる方法です。会社の福利厚生としての側面と、社長自身の老後資金準備という側面を両立できます。
生命保険や資産運用の活用
役員退職金の準備を兼ねた生命保険の活用や、NISAなどを利用した資産運用も、老後資金を厚くする選択肢の一つです。公的年金だけでは不足しがちな部分を、こうした制度を組み合わせて補っていくという発想が重要になります。
会社員時代の年金加入期間はどうなるのか

独立して会社を設立する前に会社員として働いていた期間がある方は、その間に納めた厚生年金の加入記録は消えることなく引き継がれます。年金は加入していたすべての期間を通算して将来の受給額が計算される仕組みになっているため、会社員時代の加入期間と、社長になってからの加入期間は合算されます。したがって、独立前にどれだけ厚生年金に加入していたかも、将来の年金額に影響する要素の一つです。
将来設計を考えるうえでのポイント

社長として将来の年金を含めた生活設計を考える際には、次のような視点を持っておくと安心です。
まず、現在の役員報酬の水準が将来の年金額にどう影響するかを定期的に確認すること。
次に、会社の業績や資金繰りとのバランスを見ながら、退職金制度や共済、確定拠出年金などを計画的に組み合わせて準備すること。そして、年金定期便やねんきんネットなどを活用し、自分がこれまでどれだけの期間・報酬で年金に加入してきたかを定期的に把握しておくことです。公的年金の見込み額を把握したうえで、不足する部分をどの制度で補うかを考えることが、無理のない将来設計につながります。
まとめ

社長にも会社員と同じように国民年金・厚生年金という年金制度が適用されており、法人から役員報酬を受け取っている限り、年金がまったくないということはありません。ただし、役員報酬の決め方や在職老齢年金の仕組み、退職金の準備方法など、会社員とは異なる注意点があるのも事実です。公的年金だけに頼るのではなく、小規模企業共済やiDeCo、確定拠出年金などの制度を組み合わせながら、早いうちから将来設計を進めておくことが、経営者としての安心につながります。