企業を取り巻く経済環境が大きく変化する中で、資金調達の方法も多様化してきました。
従来の銀行融資に加え、クラウドファンディングやベンチャーキャピタル、リース、助成金などさまざまな手段が選択肢に加わっています。
その中でも近年とくに注目を集めているのが「ファクタリング」という資金調達の手法です。
ファクタリングは売掛債権を現金化しスピーディーかつ柔軟に資金を調達できる方法として中小企業やスタートアップを中心に急速に普及しています。
本章ではファクタリングの基本的な仕組やメリット・デメリット、活用のポイントについて詳しく解説していきます。
ファクタリングとは?
ファクタリングは企業が保有する売掛債権、すなわち取引先から将来的に支払われる売掛金の債権をファクタリング業者に売却して早期に現金化する資金調達法です。
仮に取引先に対して100万円の売掛金があり入金が60日後であった場合、その請求権は決済手段として活用できないので手元資金として活用することができません。
しかしこの債権をファクタリング会社に譲渡することで即座に現金を受け取ることが可能になります。
この手法の最大の特徴は金融機関からの借り入れとは異なり「借金ではない」という点にあります。
あくまで資産(売掛債権)の売却という形であるため、企業のバランスシートにも影響が少なく、信用情報にも響かないという点が注目されています。
特に資金繰りに悩む中小企業や金融機関の与信審査を通過することが難しい企業にとっては非常に心強い資金調達手段となります。
ファクタリングの仕組みと種類
ファクタリングには大きく分けて「2社間ファクタリング」と「3社間ファクタリング」の2種類があります。
それぞれ仕組みは異なり適したシーンも異なります。
2社間ファクタリングは売掛先企業が契約当事者とならず、売掛債権を持つ企業とファクタリング会社の2者だけで行う取引です。
売掛先にはファクタリングの事実が通知されないため、取引関係に影響を与えずに資金化できるというメリットがあります。
一方で売掛債権の回収リスクはファクタリング会社が引き受けるため、手数料はやや高くなる傾向があります。
3社間ファクタリングは売掛先企業も取引に関与する形式です。
ファクタリング会社が売掛先に対して直接債権回収を行うためリスクが軽減され、手数料が低くなるという利点がありますが、売掛先に通知が必要となるため場合によっては関係性への配慮が求められます。
また「診療報酬ファクタリング」や「建設業特化型ファクタリング」といった業種別のサービスも登場しており、それぞれの業態に応じた柔軟な資金調達が可能となっています。
診療報酬ファクタリングは保険診療を行う医療機関向けのサービスで、診療報酬を支払う公的機関に対して有する債権を一般商社の売掛債権と同様に扱って資金化するものです。
類似のものに調剤薬局向けの調剤報酬ファクタリング、介護事業者向けの介護報酬ファクタリングなどがあります。
ファクタリングのメリット
ファクタリングには借り入れや融資に比べて多くのメリットがあります。
一般的な銀行融資の場合、申し込みから融資実行までに数週間から1か月程度かかることが少なくありませんが、ファクタリングであれば、早ければ即日、遅くとも数営業日内に資金を受け取ることができます。
このスピード感は急な支払いや突発的な資金ニーズに対応するうえで非常に有効です。
次に審査が柔軟であるという点も大きな魅力です。
ファクタリングは売掛債権の信用を評価するものであり、債権保有企業の信用力ではなく、取引先(売掛先)の支払い能力が審査対象となります。
そのため設立間もない企業や赤字決算の企業でも利用できる可能性が高く、他の金融商品と比べて利用しやすい特徴があります。
またファクタリングは借入ではないため企業の信用情報に記録が残らず、将来的な銀行融資の障害にもなりません。
この点は財務戦略上非常に重要であり、資金調達の多様化を進めるうえでもメリットといえます。
ファクタリングのデメリット
ファクタリングにもいくつかのデメリットや注意すべき点があります。
2社間ファクタリングの場合、取引の性質上リスクが高くなるため手数料は10%〜30%程度になるので、くり返し利用すると企業の収益に影響を及ぼす可能性があります。
3社間ファクタリングを利用する場合には売掛先に対する通知や同意が必要になります。
そのため取引先との信頼関係や交渉の仕方によっては導入が難しい場合もあるでしょう。
別途注意すべき点としては悪質なファクタリング業者も存在しており、高額な手数料や不当な契約条件を提示してくるケースもあります。
利用に際してはファクタリング業者の実績や口コミなどをしっかりと確認し、信頼できる業者と取引を行うことが大切です。
ファクタリングが活躍する具体的なケース
ファクタリングがとくに効果を発揮するのはキャッシュフローのズレによって一時的な資金ショートが懸念されるケースです。
建設業では工事完了後に入金まで数ヶ月かかる場合があり、その間に材料費や人件費の支払いが発生します。
こうしたときにファクタリングを利用して工事代金の請求書を現金化すれば支払いに充てることが可能です。
小売業や製造業でも仕入れ資金の確保に悩む企業が少なくありません。
販売先への納品後に現金が入ってくるまでの期間にファクタリングを使えば、すぐに資金化して次の仕入れや生産に充てることができ、機会損失を防ぐことができます。
これに限らず、突発的な経済危機によって売上が落ち込んだタイミングで既存の売掛債権を使い当座の資金を確保できるという点は非常に心強い要素です。
ファクタリングと他の資金調達手段との比較
ファクタリングはスピード感と柔軟性において他の手段より優れており、企業の資金戦略を強化できる点で強みを持ちます。
銀行融資は金利が低く長期的な資金調達に適していますが、審査が厳しく時間がかかる傾向があります。
クラウドファンディングはアイディア次第で大きな資金を集めることも可能ですが、成功率やプロモーションに左右されます。
その点、ファクタリングは確定している債権を活用するため実現性が高く、スムーズなキャッシュフロー改善が可能です。
ファクタリングをうまく活用するためにはまず自社のキャッシュフローの流れを把握し、どのタイミングで資金が必要なのかを明確にすることが望まれます。
単発で利用するのではなく、資金繰り計画の中に組み込むことでより安定的に経営を支えるツールとして機能させることができます。
また信頼できるファクタリング会社を選ぶことが非常に重要です。
手数料だけで判断するのではなく、対応のスピードや契約条件の明確さ、サポート体制などを総合的に評価することが求められます。
ファクタリングは単なる「現金化手段」としてではなく、「戦略的資金調達」として捉えることが重要です。
売上成長に向けた仕入れ強化や販路拡大など、前向きな投資に資金を活用することで結果として企業の成長にもつながります。
資金調達手段としての発展
近年はテクノロジーの進化によってオンライン完結型のファクタリングサービスが一般的になっています。
AI審査によってスピーディーに与信判断が下され、数時間以内に資金化が完了するケースも増えています。
今後DX(デジタル・トランスフォーメーション)が進むにつれ、ファクタリングはさらに企業経営に密着したサービスとして広がっていくでしょう。
経営者や財務担当者にとって、こうした新しいファイナンスの形を理解し柔軟に取り入れていくことが求められます。
まとめ
この回ではファクタリングの基本的仕組やメリット・デメリット、活用のポイントなどについて見てきました。
資金調達は企業経営の根幹であり、その手法を誤ることは経営リスクに直結します。
ファクタリングはそうした資金調達の新たな可能性を切り開く選択肢としてますます重要性を増しています。
その利点と注意点を正しく理解し、目的に応じて戦略的に活用することで、企業はより安定した経営基盤を築くことができます。
これからの時代、ファクタリングは経営戦略の一部として位置付けられていくことになるでしょう。