企業経営における資金需要は実に様々な場面、理由により生じます。
資金確保の責任を負う経営者としては、必要な金額の多寡もさることながら、資金需要にかかる時間的制約や、どのくらいの期間で資金の利活用を行うのかといった用途の別も考えて資金調達に臨む必要があります。
資金調達法には多くの種類があり、資金需要の性質と相性の良い方法を用いることで経営を有利に展開できるようになります。
この回では短期的な資金需要を想定し、これを乗り切るために有効な方法について見ていきたいと思います。
ファクタリング
短期的な資金需要に対して効果的な資金調達法の代表格としてはファクタリングが挙げられます。
ファクタリングは借り入れや融資と異なり返済の必要が無い資金調達法です。
長期的な資金需要を想定した場合、根保証を利用した継続的な貸し付けを受けることも考えられますが、借り入れや融資は繰り返し行うことで利息負担が膨らみますし、返済にかかる負担が事業計画に影響することも多いです。
ファクタリングは会社が保有する売掛債権を売却して現金化するもので、イメージ的には在庫などの資産を売却して現金化する行為に似ています。
他者の資本を当てにする方法と違い、自力での資金調達を実現できるため近年は借り入れに代わる資金調達法として人気が出ています。
分かりやすく個人の感覚として見た場合、例えば冷蔵庫が壊れてすぐに買い替えたいけれど手元資金がない、借金もしたくないという場合に、不要な金券などを売って手元資金を作ることができます。
ファクタリングはその感覚に近く、借金に頼らずに事業を回していくことができるので安全性の高い資金調達法です。
保有する売掛債権をファクタリング業者に売却して、その代金を事業資金として活用することができ、融資のように交付された資金の用途に制限が出ることもありません。
また最短当日中に資金化できるので、「週末まで」「明日までに」といった緊急的な資金需要にも対応します。
資金ショートなどの緊急需要の他、運転資金など概ね1年以内の短期の資金需要にはファクタリングがお勧めできます。
ノンバンクのビジネスローン
短期的な小口の資金需要には小回りの利くノンバンクのビジネスローンが有効なことがあります。
銀行よりも柔軟な対応が可能なノンバンクでは、多少赤字があっても利率を挙げてリスク回避することで貸し出しを受けられることがあります。
リスク回避はノンバンク側の都合によるものですので利用者側としては利息負担が上がることになりますが、銀行融資が望めず、売掛債権がないためにファクタリングも利用できない場合は選択肢となり得ます。
ちなみにファクタリングは利用企業の経営状態は問題にならないので、赤字があっても、また税金の滞納があっても利用は可能です。
ノンバンクの場合は税金の滞納があるとさすがに取引を断られますが、多少の赤字は目をつぶってもらえます。
経営の状態がかなり悪く、そのままでは貸し付けを受けられない場合、不動産などの担保や保証人を立てることで利用のハードルを下げてもらえます。
カードローン
法人向けカードローンは小口の資金を迅速に借り受けることができるので、小口の支払資金の迅速な確保が求められるシーンなどで活躍します。
限度額内であれば面倒な手続きなしで繰り返し貸し付けを受けることができるので、手間の面でも忙しい事業主にとってはメリットがあります。
ただし、その手軽さからつい繰り返し利用してしまう癖がつきやすいので注意が必要です。
カードローンは金利が高いため繰り返し利用することで金利負担がかなり膨れ上がることもしばしばです。
万が一返済を焦げ付かせてしまうとブラックリストに載ってしまい、カードの利用ができなくなるだけでなく、ビジネス上で取引先からも避けられてしまうリスクがあります。
他者の資金に頼る借り入れの利用は十分注意する必要があり、手軽さが売りのカードローンでは特にそのリスクに注意を要します。
在庫処分
現物の商品を製造あるいは仕入れて販売する形態の場合、売れ残った在庫を処分することも考えましょう。
一般市場で売れ残った在庫は保管しておくだけでも場所代などの保管費用がかかります。
季節セールなどと相性のよい製品の場合は時期を区切ってディスカウント販売を仕掛けてもいいでしょうし、もしそのようなことができない場合は専門業者にまとめて買い取ってもらうことも考えましょう。
セールの場合は比較的市場価格に近い値で売れますが、専門業者の買い取りの場合はかなり値が下がってしまうことが考えられます。
帳簿価格よりも低い価格で換価した場合、会計上で売却損の処理が可能で損金計上が可能です。
売却損は税務署が詳しくチェックする項目ですので、売却時の価格などが分かる資料を必ず保管しておくようにしてください。
不動産や動産の売却
もし不動産や動産などの資産があれば、在庫商品よりも資産価値が高いのでまとまった資金源とすることができます。
短期的な資金需要を想定した場合、一旦売却した後で買戻しができるリースバックを活用することも考えられます。
リースバックは売却することで対象物の所有権が買い手に移りますが、その後は賃料を払うことで使用の継続が可能です。
そのため資金調達の手段として検討されることがあり、さらに将来的に買戻しの約束を取り付けることもできます。
短期の資金需要に際して緊急的に売却資金を活用し、資金繰りが安定したら対象資産を買い戻せば所有権を回復できるので元の状態に戻ります。
ただし不動産は買い手を見つけるまでに1ヶ月~3ヶ月程度を要すことが多いため、資金ショートなど緊急性のあるケースでは利用が難しいと思われます。
一時的な資金需要でも緊急性の無いケースでの適用となります。
資金繰りが苦しくても絶対に避けるべきこととは
ここでは資金繰りが苦しい時でも避けるべきNG行為について見ていきます。
①取引先への支払い遅延
取引先への支払い遅延は道義的にも許されませんし、何より商慣習を破壊する行為ですから許されるものではありません。
支払いを受けられない取引先は自分方の支払いに要する資金が確保できず倒産の危機に陥ってしまうこともあります。
これを機に関係先が連鎖倒産ということも実際に起きていますから、たった一社の支払い遅延が商取引においてどれだけ大きな影響をおよぼすのか想像がつくと思います。
考えられる正規の方法でなんとかして資金調達に臨まないといけません。
②給料や税金、社会保険料の滞納
従業員の給料や社会保険料、税金の滞納は絶対避けなければなりません。
給料未払いは経営者が法的責任を追及されますし、士気低下を受けて事業の継続が危ぶまれる事態になります。
税金や社会保険料を滞納するとペナルティとして延滞金など余計な支払いが増えてしまいますし、督促に応じられない場合は財産の差し押さえを受けることになります。
こうなると信用はがた落ちですので、まともにビジネスを続けることは難しくなるでしょう。
③手形の不渡り
手形を振り出している場合、不渡りを二回起こしてしまうと銀行から取引継続を断られます。
この事情は取引先に伝わり、その後業界内に大きく出回ることになりますから、やはり信用はがた落ちでどこも取引してくれなくなります。
④闇金
どんなことがあっても絶対に利用してはいけないのが闇金です。
従業員の給料が支払えなくても、手形の不渡りを起こしそうだという場合でも、それでも絶対に利用してはいけません。
闇金は闇の金融機関ではなく純粋な犯罪組織で、借りた金を返せばそれで済むという類のものではありません。
一旦付き合ってしまうと付き合いを抜けられなくなる仕組みがしっかりと作られているので、初手として接触の糸口を持つことさえ許されないと考えてください。
少額でも一旦借りてしまうと、難癖をつけて返金ができない状況に追い込んだり、仮に借りた金を返せたように見えても難癖をつけてトラブルに持ちこまれる可能性が高いです。
一旦付き合ってしまうと渡した個人情報を使って自身や家族、従業員、従業員の家族、その友人など被害の幅を広げてどこまでも追いかけてきます。
闇金を利用するくらいなら潔く倒産する方がマシということですが、その前にファクタリングやビジネスローンなど正規の手法が幾らでもあるのですから、これらを併用するなどして資金繰りの活路を開けるようにしてください。
まとめ
本章では短期的な資金需要を乗り切るための方法について見てきました。
短期の資金需要に応える手段は複数考えられますが、他者資本に頼らず迅速、確実に資金を確保できるファクタリングは返済負担も生じない万能な方法ですので、掛け取引をされている方はぜひ優先して考えて頂ければと思います。
ファクタリングが利用できない場合でも、ノンバンクのビジネスローンや資産の売却による資金調達などいくつかの手法が考えられます。
資金調達として闇金を利用するのは論外として、給料や税金などを滞納してしまうような事態にならないよう、早めに手を打って資金確保に動けるようにしてくださいね。