日本は以前から働き過ぎだと海外から批判されることも多く、国内でもワークライフバランスの考えを取り入れた就業環境が強く意識されるようになっています。
休みがとりづらく体を壊してしまったり、家族との時間が十分に取れずに生活がすさんでしまうような事態を少なくするため、国は働き方改革を進めています。
この考えは決して間違ったものではありませんが、そのために労働者の収入が減ってしまう可能性についても指摘されています。
本章では働き方改革と労働者の収入について深堀して解説していきます。

国が進める働き方改革とは?

国が進める働き方改革とは?

そもそも現在国が進めている働き方改革とはどのようなものかザックリと押さえておきます。
基本的には労働者保護が根底にある考え方なので、労働者が有利になる話だと捉えることができるのですが、要旨としては大きく以下の3つに分かれます。

①労働時間の制限

日本の労働法制上では時間外労働の上限が設けられていますが、この規制が一段と強められることになりました。
原則として月に45時間、年間で360時間を超えて残業させることはできません。
特別な事情がある場合でも、年間720時間で月100時間未満、なおかつ月をまたいで平均して80時間以内に抑える必要があります。
これ以上は例え労使の合意があっても時間外労働をさせることはできません。

②使用者側から有給休暇の時季指定をすること

有給休暇は基本的に労働者側が申請しないと取得できませんが、職場の環境によって取得しづらいと取得率がなかなか上がりません。
そこで一定の条件を満たす労働者に対しては、会社側から年5日分の有給休暇を時季指定することが義務付けられました。
会社側からの指示で休むことになるので、労働者側は気兼ねなく有給休暇を取得できます。

③同一労働同一賃金

従来、正規社員とパートなどの非正規社員の間では同じ仕事をしても給料やボーナスなどで不合理な差があることが指摘されていました。
労働の内容が同じものに対しては、こうした待遇差をなくすことが企業に義務付けられています。
これら3つの考え方は元々ワークライフバランスの推進に適合するもので、被雇用者の生活向上を目指してのものなのですが、そのために労働者の収入が減るという事態も起きてきます。
収入の減少は上で見たもののうち主に労働時間の制限からくるものですが、これについて次の項から見ていきます。

働き方改革で収入が減少する人も

働き方改革で収入が減少する人も

働き方改革は労働者の労働時間が増えすぎるのを防ぎ、健康を維持して家庭生活を健全に送れるようにするのが目的です。
必然的に、これまで多くの労働時間を費やしてきた人はその時間が減ることになるので、伴って支払われる対価(収入)が減少する人も出てきます。
今まで残業を多くしてこなかった人は大きな影響はないと思いますが、残業をガンガンしてガッツリ稼いでいたような人は収入がかなり減ってしまう人もいるでしょう。
これまでの働き方が残業代でガッツリ稼ぐタイプの人は、これからの生活設計の見直しが必要かもしれません。

働く人の意識改革も必要

働く人の意識改革も必要

そもそもの話ですが、残業はどうしても必要な場合のみに行われるもので、残業代に頼った生活設計は本来の姿ではないといえます。
借金返済のため、住宅ローン返済のためなどお金が必要な事情は人それぞれですので、そこに口出しをすることはできませんが、残業代ありきで生活設計をするのは正しい姿とは言えません。
基本的には通常のお給料で回せるライフスタイルを構築するべきで、その意味では働く人の側でも意識改革が必要と言えます。
借金をしない範囲で生活する、残業代を抜きにして生活費を計算し、十分返済可能な範囲で住宅ローンを組むなど、個々人の意識においても残業代を当てにしない生活が基本であると考えましょう。

企業側はどう捉えるべきか

企業側はどう捉えるべきか

では働き方改革について企業側はどう捉えるべきでしょうか。
まず労働者の収入減につながる残業規制に関してですが、無駄な残業代をカットできるのは企業にとってもメリットです。
ただこれまで残業を多くしてきた企業の場合、残業無しでは通常の業務が回らなくなるなどの弊害が出るかもしれません。
考え方としては、やはり残業させることを前提にした就業時間の設定に無理があるわけですから、これを改めないといけません。
既存社員に残業を強いるのではなく、残業をさせずに浮いた費用でパートを雇うなどの検討が必要になります。
また残業が減っても業務量そのものが減らないようでは、結局社員は仕事の持ち帰りをしなければならず、かえって不満が増幅する危険もあります。
ですから業務の効率化についても同時に検討が必要でしょう。
これまで不本意な残業を強いられてきた社員はこうした対応を好意的に受け入れてくれると思いますが、逆に残業でガッツリ稼いできた社員は収入減少による不満が出る可能性があります。
基本的には上で見たように残業代に頼らないよう、個々人の生活設計の見直しをしてもらうしかないのですが、勤め先の会社としては例えば副業を認めてあげるなどの工夫もできます。
特別な条件なしで副業を認めるか、一定の条件を付すかなどは個々の会社で考えることになりますが、柔軟な働き方を認めてあげる方が従業員の定着率の面でも有効と考えられます。
近年は人手不足から新規採用が難しくなっていますし、せっかく育てた社員が辞めてしまうと一から育てるのに時間もかかってしまうので、既存従業員の離職を避けるような取り組みが求められます。

まとめ

本章では働き方改革がどのようなものか押さえた上で、労働者の収入減少につながる可能性についても一緒に見てきました。
働き方改革は働き手の労働負荷を下げて望ましい生活をおくれるようにするための施策で、これ自体は大多数の人に歓迎されるものです。
ただ残業代を目当てにしてきた人にとっては収入減になる可能性があるので、この面で何らかの対応が必要になります。
企業側だけでなく、働く人自身も残業に頼らない生活設計が必要になるので、残業規制で収入が大きく減ってしまうような人は生活スタイルや家計の見直しなどに早めに着手してください。