ビジネスの面白さを味わえるのは経営者の特権と言ってよいかもしれません。
何をどのように進めるかは基本的に経営者が自由に決められますし、事業の柱を複数持って同時に進めても構いません。
「面白そうだ」「儲かりそうだ」と思えばいつでも事業化が可能です。
ただし新規事業に乗り出すにはそれなりの元手が必要になります。
本章では新規事業のための資金調達や資金管理方法について見ていきます。

新規事業の資金調達≒融資

新規事業の資金調達≒融資

初めに重要なことを述べておきますが、新規事業の資金調達はイコール融資を受けるということではありません。
融資は資金調達の一手段に過ぎず、他にも手段は数多くあります。
資金調達手段として融資を用いるのが望ましいケースもありますし、そうでないケースもあるので、経営者は様々な資金調達手段があることを理解し、ケースに応じて適切な手段を選択できるようにしておくことが大切です。
資金確保の手段を検討するにあたっては既存事業者かスタートアップかによっても違ってきますし、既存事業者の場合は事業歴や内部留保の余裕の度合いによっても変わってきます。
大事なことは個別の状況を考えて適切な資金調達法を考え、必要に応じて組み合わせることです。
次の項からは新規事業のための資金調達手段を意識して、具体的な手法を大枠から捉えていきます。

新規事業を見据えた社内留保の蓄積

新規事業を見据えた社内留保の蓄積

既存事業者であれば、新規事業を見据えてあらかじめ利益を留保して蓄積しておくことができます。
中長期的に計画を練って走り出す算段が取れるようであれば、時間的余裕を確保して社内に事業資金を蓄積できます。
充分な資金を確保できれば融資などに頼らずに済み、安定した事業資金で新規事業の船出を飾ることができるでしょう。
余裕資金を見積もることが難しい場合、一部の事業売却などで資金化を図ることもできます。
不採算部門を売却してスリム化を図ると同時に資金調達が叶うので、上手くいけば一石二鳥です。
不採算部門であっても、その道ですでに成功している他社から見ると営業用資産や抱えている顧客などが魅力的に映ることがあるので売却を諦める必要はありません。
一般に事業売却には時間と手間がかかることが多いので、新規事業展開までに間に合うように段取りを調整しましょう。

投資

投資

会社も法人として投資を行う主体になれますから、まとまった資金を運用して投資をして資金を稼ぐこともできます。
他社の株式を購入して値上がり益を狙うこともできますし、債券を購入して償還期間を新規事業の開始に合わせるようにすれば、事業開始前にまとまった資金を確保できます。
株式や債券は各種ある資産の中では比較的流動性のある資産で、売買市場の中で自由に換金もできます。
リスク資産は元本割れがあり得るのでこの点は留意が必要ですが、法人として大きな資金を投入すればまとまった資金の用意が可能になります。

外部からの借り入れによる資金調達

外部からの借り入れによる資金調達

既存事業や投資などからの資金確保が難しい場合、あるいはスタートアップのため既存の事業が存在しない場合、または必要資金額に満たない場合は外部から資金を調達することも検討することになるでしょう。
融資や借り入れによる資金調達をデットファイナンスと言い、昔は資金調達と言えばこれがメインになっていた時代もありました。
今では資金調達手段が多様化しているのでデットファイナンスはあくまで一手段の扱いですが、具体的には以下のような方法を検討できます。

①銀行融資

民間の銀行に融資をお願いするもので、融資対象は十分な事業歴と信用がある既存事業者です。
事業歴が浅いスタートアップは別途担保や保証人を用意できないと融資を受けるのは難しいでしょう。

②制度融資

信用保証協会に保証料を払い、公的な保証を取り付けることで銀行からの融資を引き出しやすくすることもできます。
自治体によっては保証料の一部を補填してくれることもあります。

③ノンバンク

ノンバンクは銀行よりも融通が利きますが、利率が高いので積極的な利用は避けるのがベターです。
どうしても資金が足りない時の埋め合わせに併用する程度の利用に止めるのが安全です。

④日本政策金融公庫

中小零細やスタートアップでも融資を受けられるチャンスが銀行より高いので、時間的余裕がある場合は検討できます。
公的機関ですので融通は利かず、融資獲得まで長期間かかるので計画性を持った利用が求められます。

⑤社債発行

既存事業者で十分なネームバリューがあれば社債を発行して投資家からダイレクトに資金を募ることもできます。
社債は借金ですので期日には利息を乗せて投資家に償還する必要があります。

資本増強による資金調達

資本増強による資金調達

返済の必要のない資本増強による資金調達をエクイティファイナンスといいます。
端的には株式を発行して投資家から資金を募るものですが、借り入れや社債の発行と違って投資家から受け入れる資金は返済の必要がないため、安定した事業資金として活用できます。
その代わり投資家は株主の地位を取得するので、経営に一定の口出しをする権利を持つことになります。
自由な経営が阻害される可能性があることには留意を要します。
具体的な方法としては制限を設けずに広く一般に株主を募る方法や、取引先、あるいは付き合いのある金融機関など特定の関係者にのみ新たに株主になってもらう方法、また既存の株主だけに対象を絞って追加で株式を取得してもらう方法などを検討できます。
もし新規性があったり社会起業的な性質があるもの、話題性に富んだ事業内容であればベンチャーキャピタルやエンジェル投資家、クラウドファンディングなども検討できます。

保有資産の現金化による資金調達

保有資産の現金化による資金調達

他者の資金に頼りたくない場合や、新規事業開始まで時間がないケースでは保有する資産を売却して現金化し、これを事業資金として用いることもできます。
自社資産の現金化による資金調達をアセットファイナンスと言い、使用していない動産や不動産、債権などの売却が考えられます。
通常、会社が保有する工場機械などの動産は事業に必要ですし、不動産も事業用として用いているでしょうから簡単には売れません。
リースバックで売却した後に賃料を払って利用するという方法もありますが、一般に買い手となる投資家を見つけるのは大変です。
アセットファイナンスでお勧めできるのが債権譲渡によるもので、売掛債権を現金化するファクタリングが人気です。
ファクタリングは掛け取引をしていて売掛金を保有する会社が利用でき、売掛債権を現金化して事業資金とすることができます。
売掛債権は支払い期日が来るまでは事業資金として活用できませんが、ファクタリング業者に売却することで現金化が可能です。
融資と違って売却代金は使用使途に制限がないので、新規事業にかかるどのような使途にも用いることができます。
ファクタリングは債権の現金化であり借金ではないため、利用に際して担保や保証人を求められることはありません。
新規事業は当初不安定となることもあるので、返済が必要となる借り入れの場合は返済計画が事業に支障をきたす可能性がありますが、ファクタリングは返済の概念がないので、この負担を気にせずに事業を進めることができます。

まとめ

本章では新規事業のための資金調達や資金管理方法について見てきました。
資金確保に検討できる手段や方法は色々あり、また既存事業者とスタートアップでも検討できる手段が異なります。
必要に応じて複数の手段を併用することもでき、例えば融資による借り入れとファクタリングを併用するということもできます。
上で見たように具体的な資金調達手段は多様性があります。
これを理解したうえで状況に合わせて利用しやすい手段をとれるようにしましょう。