起業当初は事業主が一人で会社を切り盛りすることは普通に見られますが、ある程度軌道に乗ってくれば取引金額は増えて人を雇うなどし、少しずつ事業規模が大きくなります。
大きくなった会社は本業とは別に投資資産として他社の株式を買うこともありますし、自社のステークホルダー向けに株式の増発などを行うこともあります。
そうした際には財務や投資関係の指標を参考にする必要があり、ステークホルダー向けに事業戦略を考える際には自社の状態を経営者自身が正しく判断できなければなりません。
本章では経営者の判断をサポートする基礎知識や各種の金融・財務指標について解説していきます。
経営判断に関わる各種の指標
経営者としては単に自分軸で物事を考えるだけでは足らず、自社が株主などのステークホルダーからどのように見られているのかという視点を常に持っておかなければなりません。
会社の経営実務は経営者が仕切りますが、所有者は株主ですので、彼らの望む経営を取り仕切らなければ企業の運営が続けられなくなります。
「自分の会社が外部からどのように見られているのか」ということを常に考えていかなければならないので、相当のストレスになる事は否めません。
株主などのステークホルダーが対象企業をアナライズする際には必ず財務諸表をチェックします。
財務諸表は貸借対照表、損益計算書、そしてキャッシュフロー計算書からなります。
貸借対照表はある特定の日におけるその会社の財務状態を示すもので、左側が各種資産、右側が負債と純資産の部で構成されています。
左側の資産をどうやってその会社が調達したのか、その過程を負債や純資産という形で右側に示す表であると考えてください。
左側の資産は右側の負債および純資産の合計と同額になり、必ず数値が一致するため別名バランスシートと呼ばれます。
損益計算書はその会計年度の事業成績を示すもので、得られた収益と発生した費用がまとめられています。
キャッシュフロー計算書は会計年度中のキャッシュ(お金)の流れとその量が記載されています。
キャッシュフロー表は企業規模によっては作成が任意になっていますが、投資家が参考にしたい情報が載っているので、ステークホルダー向けに作成されることがあります。
内訳として営業活動によるキャッシュフロー、財務活動によるキャッシュフロー、投資活動によるキャッシュフローがあり、それぞれ現金の流れと量が記載されます。
キャッシュフロー計算書の特徴としては、あくまで現金の動きがあったかどうかで判断され、それぞれの流通が現金のプラスなのかマイマスなのかを判断の上でまとめられていく点です。
そのため慣れないと現金の流れのプラスマイナスを間違ってしまうこともあり、経験の浅い会計や財務担当者を悩ませることもしばしばです。
営業活動によるキャッシュフローはその会社がどれだけのキャッシュを生み出しているかを扱い、投資活動によるキャッシュフローは不動産資産など経営に関わる資産にどれだけ投資したか、財務活動によるキャッシュフローは資金調達などによる収入と返済にどれだけのキャッシュが動いたかが記録されます。
なお、会社の現金が枯渇しないように資金の流れを把握するためなどの目的で作成される、いわゆる資金繰り表は、キャッシュフロー計算書とは別物です。
資金繰り表は経営者や財務担当者が社内で用いる内部資料であり、キャッシュフロー計算書は外部に公表される財務諸表の一部ですので、両者は別物だという認識を持ってください。
経営分析の指標
財務諸表からは様々な指標を読み取ることができます。
これにより、株主などのステークホルダーに自社がどのように見られるのかが分かるので、事業の運営方針について今後の進め方を調整することができますし、問題なく進んでいるようであれば自信をもって現状維持の判断を下すということもできます。
また自社の財務諸表から読み取れる指標を活用することができるということは、他社の財務諸表を読み取ってその運営能力を見極めることもできるということになります。
企業は他社の株式や債券を購入して投資も行いますから、その際に財務諸表の指標を読み取れないと投資判断を誤ってしまうことになります。
分析する対象が自社なのか他社なのかの違いはあるにせよ、経営者としては各種指標の読み取りと分析を行えるようにしておくことが望まれます。
次の項では代表的な財務指標、投資に用いる場合は投資指標となるものを見ていきます。
代表的な投資指標・財務分析指標
投資目的で分析する場合は投資指標として、自社の財務分析をして経営戦略を練り直したりする場合は財務分析指標として用いる各種の代表的な指標を見ていきます。
①自己資本比率
会社の資本体力を測る指標で投資対象としての安全性を見る指標でもあります。
会社が保有する資金は様々な過程で組み入れられますが、返済の必要がない安定した資金をベースにした資産がどれだけの比率で組み込まれているのかを示すのが自己資本比率です。
計算式にして表すと以下のようになります。
自己資本÷総資産×100=自己資本比率
投資対象として見た場合には自己資本比率が安定していれば投資適格と判断する要素になりますし、自社の財務分析として扱う場合には自社株主に安心してもらえる要素になります。
②流動比率
流動比率は概ね1年以内に支払いが必要になる流動的な負債に対して、概ね1年以内に現金化できる流動資産で手当てができているかを示す指標です。
支払いが必要な時にその資金が無ければ支払いに窮して資金ショートが起き、会社が倒産の危機に陥ることになります。
そのようなことが起きないか、起きる気配がないかを探れるのが流動比率という指標です。
計算式で表すと以下のようになります。
流動資産÷流動負債×100=流動比率
流動資産は貸借対照表の左側に、流動負債は右側に掲載されています。
③固定比率
流動比率は短期の支払い能力を示しますが、長期の支払い能力を示すのが固定比率です。
長期間使用する固定資産に係る支払いについては、安定した資産である自己資本で賄うのが安全という考えの元、以下のような算式で表されます。
固定資産÷自己資本×100=固定比率
固定比率も投資対象としての安全性を求める指標ですので、長期的に安全を維持できるかを見通して投資に値する対象かどうかを見極める要素になりますし、自社の固定比率が安定していれば自社ステークホルダーに安心してもらえる材料になります。
③総資本経常利益率
総資本に対してどれだけの利益を上げられたかを示す指標で、その会社の収益性を見ることができる数値です。
計算式としては以下のようになります。
経常利益÷総資本×100=総資本経常利益率
投資対象として見る場合には投資した資金から十分なリターンを得られるかどうかを見る指標となりますし、自社の財務分析として用いる場合には自社株主に満足してもらえるかどうか、さらに言えば株主をつなぎ留めておけるかどうかという視点で用いることもできます。
④売上高総利益率
売上高に占める売上高総利益で、数値が高いほど収益性のある企業だとみることができます。
投資対象として見る場合には投下資金から十分なリターンを得られるかどうかの指標になり、自社の財務分析として用いる場合は自社株主に対する満足度提供の指標となります。
⑤総資本回転率
総資本回転率はその会社の資本がどれだけ効率的に運用され収益を生み出しているかを見る指標です。
効率的な企業運営ができているかを判断する指標で、計算式にすると以下のようになります。
売上高÷総資本=総資本回転率
回転数が多いほど効率的に売り上げを上げていると判断できます。
まとめ
本章では経営判断をサポートする各種の指標について見てきました。
企業は個人投資家と違って自らが投資される側であり、事業活動として他社への投資を行う主体でもあります。
投資をする、されるという両方の側面を持つため、会社経営者としては自分自身も投資をされる立場であるという認識を持つ必要があります。
投資をする側としては投資家目線で、投資を受ける側としては経営者目線で各種の経営指標を分析することになるので、いずれにしても財務諸表の読み解き方は必須の能力となります。
株主に投資してもらえる魅力のある会社にするため、また効率的な投資をできるようにするためにも、各種指標の読み取りを意識してみてください。