個人事業は法人よりも小回りが利き、スモールビジネスから始めてうまく軌道に乗せられるか様子を見ることができるので、法人を作らずに個人事業から始めるケースは多いです。
本格的な事業展開の前のお試し的な形で始動することができますが、事業を始めた以上は税金の処理を怠ることはできません。
個人事業は法人の税務処理と異なる面が多々あるので、個人事業における税務処理について正しい知識が必要です。
本章では個人事業主ができるだけ税負担を減らすためのノウハウをお伝えしていきますので、ぜひ参考になさってください。

個人事業主は法人よりも不利?

個人事業主は法人よりも不利?

個人事業は一般に法人よりも税制面で不利だと言われることが多いです。
確かに法人は税務処理上で利益を合法的に減らせる施策が多く、その意味でお得度合いが個人事業よりも強く出ます。
ただ個人事業にも税務処理上で使える控除措置がありますし、小回りが利く個人事業では経費を上手く使うことで税金を減らしやすいメリットがあります。
また年間の売り上げがおよそ800万を超えない程度であれば、法人化しても法人税の負担が増えるので、無理に法人化する必要はありません。
次の項からは個人事業で税金をお得にする制度やルールなどを横断的に見ていきます。

青色申告は必ず利用しよう

青色申告は必ず利用しよう個人事業の確定申告には青色申告と白色申告の二種類があります。
白色申告は複雑な会計処理が不要で面倒な会計処理を避けたい人が利用しますが、税制上の特別な恩恵が一切ありません。
青色申告は複式簿記での記帳を行い、財務諸表の作成が必要で多少面倒ではありますが、要件を満たすと最大65万円の控除を受けられます。
この控除措置は経費とは違い、売り上げから経費を差し引いた後の所得からさらに控除できるものです。
これだけでなく、青色申告の適用者は繰り越し控除も認められます。
繰り越し控除とは、事業で赤字が出た場合、翌年以降一定の期間に生じた黒字との相殺が認められるものです。
通常、黒字が出た年は所得税の負担が生じますが、過去に生じた赤字と相殺することで数字上の利益を減らし、税金を安くすることができます。
相殺した結果利益が0になれば税負担が無くなります。
青色申告は個人事業主にとって恩恵が強いので、必ず適用するようにしましょう。

税額控除の適用漏れに注意

税額控除の適用漏れに注意個人事業は会社と個人の切り分けが無いので、事業上の所得も個人の所得として処理します。
個人の所得には様々な税額控除を適用できるので、これを漏らさず適用しましょう。
税額控除とは、計算の結果算出された税額から直接減額できる控除施策です。
例えば住宅ローン控除や医療費控除、投資をしている人は配当控除などもあります。
税額控除は適用漏れが生じやすいので可能なものは全て利用するようにしましょう。

所得控除で儲けを合法的に圧縮

所得控除は売り上げから経費を差し引いた「所得」からさらに一定額を控除できるもので、社会保険料控除や生命保険料控除などがあります。
こちらの控除施策も漏れのないようにしましょう。

面倒でも経費計上はしっかり行う

面倒でも経費計上はしっかり行う個人事業では経費処理も社長が自分ですることが多いと思います。
会計は本業にかける時間を奪いますし、何より面倒なのであまり深入りしたくないのが正直なところかもしれません。
しかし個人事業で税金を減らしたいなら経費関連の処理をしっかり行うことが重要です。
事業に必要な支出は経費計上することで売り上げの額を計算上減らせますから、利益に掛けられる税金を合法的に減らせます。
面倒でも経費計上をさぼらずに会計処理を行ってください。

自宅が事務所なら按分計算が可能

個人事業は自宅を事務所にしていることも多いと思います。
事業に必要な支出は経費にできるとお話ししましたが、自宅を事務所にしている場合は家賃や光熱費などを按分して経費計上することができます。
按分とは、個人の生活で使われる部分と仕事で使われる部分に分けて考え、仕事で使う分を経費計上するものです。
仕事専用の部屋がある場合は面積で按分することができますし、専用の部屋が無くても仕事で使う時間を考慮して按分することもできます。

固定資産税も按分計算できる

自宅が持ち家の場合は固定資産税を払っていると思いますが、これも按分が可能です。
家賃と同様の考え方で按分できるので覚えておきましょう。

突然大きな儲けが出たら短期前払い費用の特例を検討

突然大きな儲けが出たら短期前払い費用の特例を検討事業をしていると予想外に利益がでることもあります。
基本的に儲けが大きくなれば税金の負担も大きくなるので、大きな儲けが出るのは嬉しい反面、税金で持っていかれることに歯がゆい思いをします。
突然大きな利益が出た時は短期前払い費用の特例を検討しましょう。
これは翌期の経費を前払いできるもので、今期の利益を計算上で減らして税負担を軽減することができます。
利用できるのは家賃やサーバー代など継続してかかる経費で、一年分を年払いにする契約に変更するなどの条件を満たすと利用できます。

保険加入でリスク管理と同時に節税も

保険加入でリスク管理と同時に節税も個人事業主は会社員と違って手厚い保証がありません。
リスクには自分で備える必要がありますが、これにかかる一定の出費も経費計上が可能です。
例えば生命保険は人生のリスクに備えるのに大いに役に立ちますが、この保険料の一定額を経費計上できます。
老後に備える個人年金保険や地震災害に備える地震保険も同様で、リスクへの備えと節税を同時に実現できるのでお得です。
各種保険料の経費計上は家賃などと違って按分の必要がなく、認められる全額を経費計上できます。
どのくらいの金額を経費計上できるかは保険会社から送られてくる資料に書かれているの参考にしてください。
また確定申告の少し前に保険料控除に使用するはがきが送られてきます。
これを確定申告書に添付することで控除を受けられるので、無くなさないように保管してください。

小規模企業共済に加入する

個人事業主は会社員や会社役員のように退職金が用意されません。
毎年の利益から自分で幾らかプールして退職金を用意することもできますが、面倒ですしこの方法では税制上の恩恵はありません。
小規模企業共済は個人事業主が退職金を用意できるように制度で、掛け金を事業で生じた所得から控除することができます。
退職金を用意できると同時に節税にもなるのでお得な制度です。
掛け金は最低1000円~と少ない負担でも利用できるので、ぜひ検討してください。

中小企業倒産防止共済制度に加入する

中小企業倒産防止共済制度に加入する別名、経営セーフティ共済ともいいますが、こちらは取引先が倒産するなどした場合の連鎖倒産を防ぐ仕組みで、万一取引先が倒産するなどして資金回収が望めなくなった場合に一定額までの融資を無担保、無保証で受けられます。
万が一の際の資金繰りが悪化しないようにセーフティ機能を果たすものですが、掛け金を経費計上することができるので節税にもなります。
掛け金は最低5000円~とこちらも低負担で始められ、途中で掛け金を増やすこともできます。
逆に減額することもできるので、その時の懐具合に応じて調整できます。
必要に応じて検討してください。

法人成りを検討する

これまでは個人事業主が押さえるべき節税方法を見てきましたが、事業が軌道に乗って売り上げが上がってきたら法人成りを考えましょう。
年間の売り上げがおよそ800万円を超えたあたりからは個人の所得税の税率よりも法人税の税率の方が有利になります。
法人を設立するには一定の費用がかかり、個人事業と比べると法律や税制などで縛りが強くなるので、手間や面倒が増えてしまいますが、税金を少しでも抑えたいなら検討してください。
実際に検討する際には税理士などの専門家に相談し、どれくらいの節税が可能か、法人成りすると個人事業とどのような違いが出るのかなどをよく確かめて実施するようにしてください。

まとめ

本章では個人事業主ができるだけ税負担を減らすためのノウハウを横断的に見てきました。
個人事業でも個別の節税方法をくまなく実施することで大きな節税効果を生みますから、できるだけ税負担を減らすためにもぜひ検討してください。
自分で考えるのがどうしても手間だという場合は、節税のスポット相談に応じる税理士も多くいるので相談してみましょう。