金融機関と言えば銀行が代表格で、他にはノンバンクなどもあります。
政府系金融機関と呼ばれる組織は上記の金融機関とは異なり営利性を持たず、事業者の支援に特化した特殊な金融機関として機能しています。
本章では政府系金融機関とはどのようなものか、どのような融資制度を提供しているのか、メリットやデメリット、審査に受かるためのポイントなどについて見ていきます。

政府系金融機関=日本政策金融公庫

政府系金融機関=日本政策金融公庫

狭義で政府系金融機関と言えば日本政策金融公庫を指します。
この機関は一般の銀行のように預金業務などは行わず、もっぱら融資事業のみを扱います。
さらに融資対象は中小の事業者が主で、低金利、無担保、無保証人で借りられるなど融資を受ける側にとって非常に嬉しい施策を提供しています。
なぜこのようなことが可能かというと、日本政策金融公庫は100%政府の出資で運営されており、その目的が国内事業者の資金的支援に特化しているからです。
国内の中小やスタートアップ事業者などはどうしても体力的に劣り、自前で資金確保が難しい面があります。
完全に市場原理に任せていると、国内の若い事業者がいつまでたっても力を付けられず、それは国全体にとって好ましいことではありません。
国力の源である国内事業者を育てることは、広く国全体にとって、また国民全体にとっての利益になります。
そのため日本政策金融公庫は国民の税金を原資として事業が行われており、イメージとしては国民全体で国内事業者を育てているという構図になります。

どのような融資制度がある?

どのような融資制度がある?

では日本政策金融公庫がどのような融資制度を提供しているのか概要を見てみましょう。

①一般貸付

あまり複雑な要件を設定せず、多くの事業者が利用できるものです。
融資限度額は無担保融資の場合最大4,800万円、担保を提供できる場合は最大7,200万円となります。
返済期間は設備資金が10年以内、運転資金が7年以内です。

②特別貸付

施策の目的に照らして要件に当てはまる事業者のみを対象にする貸付プランです。
例えば以下のような事業者が対象になります。

①新規起業者
②事業拡大を図る事業者
③事業承継に取り組む事業者
④海外展開に取り組む事業者
⑤事業の再建を図る事業者
⑥財務強化を図る事業者

上記の事業者はさらに個別の要件を満たす必要があります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。

①新規起業者

こちらの場合は女性または35歳未満か55歳以上の者であること、もしくは廃業歴があって再生に取り組む人など一定の要件に該当する必要があります。
新規起業者の場合、融資限度額は無担保プランで最大4,800万円、担保を提供できれば最大7,200万円となります。
返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が7年もしくは15年以内となります。

②事業拡大を図る事業者

こちらの融資は企業活力強化貸付として以下のような事業者が対象になります。
・卸・小売業
・製造小売業
・飲食サービス業
・サービス業または一定の要件を満たす不動産賃貸業
融資限度額は無担保プランで最大4,800万円、担保を提供できる場合は最大7,200万円(運転資金は4,800万円)、返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が7年以内となります。

③事業承継に取り組む事業者

国内で大きな問題になっている事業承継に取り組む事業者を支援するものです。
M&Aを進める事業者も対象になります。
融資限度額は無担保融資で4,800万円、担保を提供できれば最大7,200万円(運転資金4,800万円)です。
返済期間は設備資金が20年以内、運転資金は7年~8年以内となります。

④海外展開に取り組む事業者

海外への事業展開として販売強化や投資、海外企業への生産委託などを図る事業者が対象です。
融資限度額は無担保プランで最大4,800万円、担保を提供できれば最大7,200万円(運転資金は4,800万円)、返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が7年~10年以内となります。

⑤事業の再建を図る事業者

傾いた事業の再建を図る事業者を支援する内容で、金融機関や中小企業活性化協議会などの協力を得られる事業者が対象になります。
融資限度額は無担保融資プランで最大4,800万円、担保を提供できれば最大7,200万円(運転資金4,800万円)です。
返済期間は設備資金が20年以内、運転資金は15年~20年以内となっています。

⑥財務強化を図る事業者

技術やノウハウに新規性が見られ、かつ新事業の展開を図る事業者や事業再生を進める事業者が対象です。
融資限度額は無担保融資プランで最大7,200万円、有担保プランはありません。
返済期間は設備資金、運転資金ともに5年1ヶ月以上20年以内となっています。

日本政策金融公庫のメリット

日本政策金融公庫のメリット

日本政策金融公庫では上で見たように色々な融資制度がありますが、全体として見た場合に他の金融機関と比べてどのようなメリットがあるのか見ていきます。

①事業歴が浅くても融資を受けやすい

銀行などは十分な事業歴が無いと信用が無いとして融資を受けづらくなりますが、日本政策金融公庫はそのような歴の浅い事業者こそ支援するべきという姿勢ですから、新規に事業を始めた人も利用しやすくなっています。

②借り入れにかかる負担が少ない

一般的な銀行では融資の際に必ず担保か保証人を求めます。
日本政策金融公庫はその負担に耐えられない事業者にこそ支援を行うべきと考える機関ですから、第三者保証はもとより代表者保証がなくても融資の道が開かれます。

③金利が安い

融資を受けられても返済は必要で、これは一般の銀行融資と同じです。
ただし公庫の場合金利が優遇されているので、ほとんどの場合民間の銀行融資よりも金利面で負担を下げられます。

④返済期間が長め

個別の融資プランにもよりますが、返済期間が概ね7年以上、長ければ20年程度の返済プランを立てることができます。
無理のない返済計画を立てることができ、安定した事業運営を図ることができます。
ただし返済期間が長くなれば利息負担が増えることになります。

日本政策金融公庫のデメリット

日本政策金融公庫のデメリット

利用者に優しいイメージがある日本政策金融公庫にも以下のようなデメリットがあります。

①迅速な融資は望めない

日本政策金融公庫は100%国民の税金で賄われているので、その運用は厳格性が求められます。
返済の焦げ付きがでれば国民がその痛みを負うことになるので、確実な返済を受けられるように審査が行われます。
利用する側としては事業計画書などの資料をたくさん用意しなければならず、手間と時間がかかります。
また審査にも時間がかかるので、迅速な融資実行は望めません。
資金確保の迅速性が求められるケースでは全く役に立たないのが残念なところです。

②希望額に届かないことも多い

100%税金で賄われていることから、公庫が「この額までなら大丈夫」と判断する金額までしか融資を受けられません。
事業者が必要とする金額に満たないことが多いので、残りは別の方法でなんとか資金を確保する必要があります

③積極的な提案は期待できない

民間の銀行の場合、経営状況を吟味して積極的に融資プランを立ててくることがあります。
事業者側としては伴走支援を受ける感じで安心感が出ますが、日本政策金融公庫はそのような積極的な提案は基本的に行いません。
事業者の融資の相談に対し、良くも悪くも事務的に審査して合否を出すという公務員的気質を持っています。
経営面で色々相談したい希望がある事業者にとっては物足りない対応に映るかもしれません。

④窓口が少ない

日本政策金融公庫は沖縄以外の全都道府県に窓口がありますが、人口が多い地域以外の市町村には窓口が基本的にありません。
都道府県によってかなりばらつきがあるので、詳しくはお住いの地域で調べる必要がありますが、民間の金融機関と比べると窓口が非常に少ないので、相談しにくい面が否めません。

日本政策金融公庫の審査に通るためのポイント

日本政策金融公庫の審査に通るためのポイント

では日本政策金融公庫を利用する場合に、審査に受かりやすくするポイントを見ていきます。

①事業計画書をしっかり作り込む

公庫の融資を引き出すには、一にも二にも事業計画書の詳細な作り込みが重要とされています。
融資担当者は各種事業について必ずしも詳しい知識やノウハウを有しておらないので、どのような事業で、どのように利益を生みだし、どのように融資金を返済するつもりなのか、事業計画書を基に判断することになります。
少しでも無理がある内容だと本当に返済できるのか懐疑的になり、融資が否決されることになります。
事業計画書の作り込みは社長だけで行うと上手くいかないことが多いので、中小企業診断士や行政書士などの専門家に相談しつつ進めるのが良いとされています。
弊社でもコンサルティング業務の一環としてご相談にのれますので、よろしければぜひご検討頂ければと思います。

②資金の用途をはっきりさせる

融資担当者が詳しく吟味する項目が融資金の用途です。
何に用いるのかはっきりしないと融資を否決されるか、金額を大幅に減らされる可能性があります。
具体的な使い道を説明できるようにしましょう。

③効果的にアピールする

これまでの事業実績や経験は融資担当者を納得させる強い要素になります。
この点は民間金融機関の融資でも同じですが、書面上はもとより、対面の面談の際にもこれまでの実績をうまくアピールできるようにしておきましょう。

④別の借り入れ等の滞納に注意する

他の借り入れや借金、ローン、クレジットカードの支払いや公共料金などについて、もし支払いの遅延や滞納があるとかなりのマイナスになります。
基本的に遅延や滞納があると融資は否決されると考えてください。
ですからもし遅延や滞納がある場合は、公庫に融資の相談をする前に滞納を解消しておかなければなりません。

まとめ

本章では政府系金融機関とはどのようなものか、各種融資制度やメリットやデメリット、審査に受かるためのポイントなどについて見てきました。
政府系金融機関とは通常日本政策金融公庫を指し、民間の銀行にくらべて有利な融資を受けられます。
ただし融資施策に応じた要件を満たさなければ利用できず、迅速な融資実行が望めないなどのデメリットもあります。
それでも、利用できる場合はメリット面を享受できるので、審査に受かるためのポイントを押さえて相談してみましょう。