原油から精製される「ナフサ」の価格が、2026年に入ってから乱高下を続けています。中東情勢の緊迫化をきっかけに急騰と急落を繰り返しながらも、川下にあたる包装資材や物流、そして私たちの食卓に並ぶ食品の価格にまで、じわじわと影響が広がっているのが現状です。本記事では、2026年7月時点での最新情報をもとに、ナフサ高騰がなぜ起きているのか、そしてそれが包装物流食品コストにどのように波及しているのかを、わかりやすく整理してご紹介します。

ナフサとは何か、なぜ今注目されているのか

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ナフサとは、原油を精製する際に得られる無色透明の液体で、「粗製ガソリン」とも呼ばれています。プラスチック、合成ゴム、合成繊維、塗料、印刷インキ、医薬品など、私たちの身の回りにあるほぼすべての石油化学製品の出発原料となっているのが特徴です。ペットボトルやビニール袋、食品トレー、フィルム包装なども、ナフサから作られるエチレンやプロピレンといった基礎製品を経て製造されています。
ナフサの価格が動くと、その下流にあるさまざまな製品の価格が連動して変化する仕組みがあります。日本の化学業界では、ナフサ価格が一定額上がったら製品価格をいくら上げる、といった「フォーミュラ方式」による価格決定ルールが広く採用されているためです。そのため、ナフサ価格の推移を追うことで、将来のプラスチック製品や日用品の値上げ・値下げの波をある程度予測することができます。
日本はナフサの多くを輸入に頼っており、国内で消費するナフサのうち約6割が輸入品残りの4割が国内生産です。ただし国内生産分についても、原料となる原油の多くを輸入に依存しているため、ナフサ全体としての海外依存度は非常に高い状態にあります。特に中東からの調達比率が高く、地政学リスクの影響を受けやすい構造になっている点が、今回の高騰劇の背景にあります。

2026年7月最新情報:ナフサ価格の推移と現状

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2026年のナフサ市況を振り返ると、まさに乱高下という言葉がふさわしい展開になっています。2026年2月28日に中東で軍事衝突が発生し、原油や石油製品の重要な輸送ルートであるホルムズ海峡が事実上封鎖される事態となりました。これを受けてシンガポールのナフサ価格は、2月末の1トンあたり588ドルから、わずか1か月足らずの3月25日には1,000ドルを突破。その後も乱高下を続け、5月16日には1,043ドルでピークを迎えました。
しかしその後は一転して価格が軟化し、6月3日には767ドルまで急落。6月上旬にはさらに下げ幅が拡大し、指標となる輸入ナフサ価格(東京オープンスペック)は1トンあたり700ドル台半ばまで下落しました。これは5月下旬から約250ドルの下落幅にあたり、原油価格の下落幅を上回るペースとなっています。
価格が下がった背景には、米国などからの代替輸入の増加や、ホルムズ海峡を迂回するサウジアラビア紅海側ルートを活用した調達の進展があり、供給不安が一時よりも和らいだことが挙げられます。需給の逼迫度合いを示すクラックスプレッド(ナフサと原油の価格差)も、ピーク時の4分の1程度まで縮小しました。
一方で、2026年6月30日時点最新データでは、ナフサ価格1トンあたり651ドル為替レートは1ドル161.83円国産ナフサ価格指標は75,219円/klとなっています。価格自体は落ち着きを見せているものの、円安水準が長期化していることもあり、国内における実質的な調達コストは依然として高止まりしている状況です。
重要なのは、「価格の軟化」と「現物の逼迫」が同時に進行している点です。価格が下がったからといって、すぐに現場のモノ不足が解消されるわけではありません。エチレンプラントの稼働率は依然として本来の水準に戻りきっておらず、樹脂の生産に必要な添加剤の供給遅延も続いています。値段だけを見て「もう落ち着いた」と判断するのは早計だと言えるでしょう。

中東情勢とナフサ・クライシス2026の背景

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今回の一連の値上がりは、業界内で「ナフサ・クライシス2026」と呼ばれるようになっています。通常の値上げと異なるのは、以下の3つの問題が同時に発生している点です。
第一に、原料そのものが不足していること。中東情勢の悪化により、日本が輸入の約7割を依存してきた中東産ナフサの供給網が不安定化しました。第二に、輸送ルートそのものが混乱していること。ホルムズ海峡という重要な海の通り道の通航リスクが高まったことで、物理的にモノを運べない状況が生じました。第三に、樹脂の生産に欠かせない添加剤の供給にも遅れが出ていることです。
2026年4月の企業物価指数を見ると、2月(情勢悪化前)対比でナフサ価格は71.3%上昇、5月は63.3%上昇となっており、一時期よりは落ち着いたとはいえ高止まりが続いています。国内の調達状況についても、4月はナフサの輸入が前年比45.1%減、国内生産が同22.8%減となるなど、供給量そのものが大きく落ち込んだことがわかります。
政府は、中東以外からの調達拡大や国家備蓄石油の段階的な市場放出などの対応を進めており、「ナフサ由来の石油製品は年を越えて供給を継続できる」との見解を示しています。ただし、特定の製品での供給の偏りや、国内サプライチェーン上での局所的な不足は今後も生じる可能性があると指摘されており、予断を許さない状況が続いています。

包装資材への影響:トレー・フィルム・インクの値上がり

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ナフサ高騰の影響が特に色濃く表れているのが、食品包装に関わる資材分野です。帝国データバンクの調査によれば、2026年5月末時点で、食品の値上げ要因のうち「包装資材」が占める割合は73.7%に達し、調査開始以来初めて7割台に到達しました。トレーや容器などナフサを原料とする資材の価格高騰が、直接的に反映された結果だと言えます。
具体的な現場の動きとしては、大手印刷・包材企業であるTOPPANホールディングスが、包装資材の仕入れ値が2〜3割増えているとして、食品・日用品メーカーに対して包装材の値上げを打診する事態が生じました。大手企業がこの規模の値上げを打診すること自体が異例であり、川下に位置する食品メーカーのコスト構造に大きな影響を与えています。
また、パルプ紙加工品製造の分野では、ハンバーガー包装紙やコーヒーフィルターなどに使われるポリエチレンラミネート紙、いわゆる塗工紙の製造において、原料の調達リスクが最も高いという調査結果も出ています。印刷業界全体で包材フィルム原料の調達が逼迫し、受注制限や値上げ交渉が広がっている状況です。
さらに、建築現場自動車補修などで使われるシンナーについても、成分のほぼ100%がナフサ由来の溶剤であるため、価格変動の影響をダイレクトに受けています。2026年2月以降、シンナー価格は最大で75〜80%という驚くべき値上げ幅を記録しており、これまで1缶4,000円程度だった商品が、実勢価格で15,000円を超えるケースも報告されています。塗装業者からは「資材が入らず現場を止めざるを得ない」「見積価格が変動しすぎて契約ができない」といった切実な声も上がっています。
食品分野においても、インクや食品フィルム、トレー類などで大幅な値上げや品薄状態が継続しており、こうした状況を受けて、商品パッケージの変更、一部商品の製造休止、商品点数の集約といった、安定供給に向けた体制づくりを進める企業が増えています。

物流コストへの波及

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包装資材と並んで大きな影響を受けているのが物流コストです。帝国データバンクの調査では、食品の値上げ要因のうち「物流費」が占める割合は74.1%に達し、2026年内で最も高い水準となりました。中東情勢の悪化に伴う原油価格の高騰が、輸送用燃料のコストを直接押し上げていることが主な要因です。
物流費の上昇は、単に燃料代が上がるという単純な話にとどまりません。トラック輸送のコストが上がれば、それは商品を運ぶすべての段階、つまり原材料の調達から工場への輸送、工場から物流拠点への輸送、物流拠点から店舗への配送まで、サプライチェーン全体に波及します。人件費の上昇(54.7%)も重なることで、物流コストは「一過性の上昇」ではなく「構造的に定着したコスト増」になりつつあると指摘されています。
政府はガソリン補助金の継続(全国平均170円水準の維持)を決めるなど、燃料価格の急騰に一定の歯止めをかける施策を講じていますが、物流業界全体で見れば、ドライバー不足や2024年問題以降の構造的な人手不足も重なっており、コスト増加圧力は根強く残っている状況です。

食品業界への影響:2026年7月の価格改定動向

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こうした包装資材と物流費の上昇は、最終的に食品の店頭価格に反映されつつあります。帝国データバンクが主要食品メーカー195社を対象に行った調査によると、2026年7月に値上げを予定する飲食料品は2,269品目にのぼり、6月の1,078品目から大幅に増加しました。単月で2,000品目を超えるのは4月以来3か月ぶりで、前年同月を上回るのは2025年12月以来7か月ぶりとなります。
分野別に見ると、冷凍食品パックごはん缶詰即席麺などを含む「加工食品」が3,029品目で最も多く、マヨネーズドレッシングなどの「調味料」が2,537品目ビール焼酎ワインなどの「酒類・飲料」が1,494品目食パンなどの「パン」も978品目と、一斉値上げが見込まれています。
具体的な事例としては、7月に食パン大手の山崎製パンが306品目の価格改定を実施するほか、即席麺大手のうち3社が7月に一斉に価格を改定する予定です(日清食品は4月、明星食品は6月にすでに実施済み)。また、霧島酒造の焼酎についても、2022年9月以来3年10か月ぶりとなる値上げが7月から順次適用される見通しとなっています。値上げの理由としては、小麦粉や原材料価格の上昇に加え、物流費・人件費・包装資材費の高騰が共通して挙げられています
年間を通じた値上げ品目数を見ると、2026年は1〜10月の判明分で9,361品目に達しており、2022年の調査開始から5年連続で年間1万品目を突破する見通しです。前年同時期の1万6,224品目と比べると4割減のペースにとどまっているものの、夏以降は値上げの動きが再加速しており、8月(849品目)、9月(580品目)についても単月1,000品目を超える可能性が指摘されています。
もう一つ見逃せないのが、原油・ナフサ価格の上昇が電気代・ガス代にも影響を及ぼす点です。火力発電の燃料費やLNG(液化天然ガス)の輸入価格が上がることで、電気料金の燃料費調整額にも波及します。政府はこれに対応するため、2026年7月から9月までの3か月間、電気・ガス料金について1世帯あたり計5,000円程度の支援を行うことを決定しました。あわせて、LPガス利用者向けの重点支援地方交付金や、ガソリン補助金の継続も実施されています。

企業が取れる対策

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このような状況の中で、企業側にはいくつかの対応策が求められています。まず、調達先の多様化です。中東一極依存のリスクが顕在化したことで、米国産ナフサの活用や、ホルムズ海峡を経由しない調達ルートの確保など、サプライチェーンの分散が重要なテーマになっています。実際に、シェールガス由来のエタンを原料とすることで中東情勢の影響を受けにくい体制を構築している化学メーカーもあり、こうした先進事例から学ぶ余地は大きいと言えるでしょう。
次に、包装資材の見直しです。トレーやフィルムの薄肉化、代替素材への切り替え、パッケージデザインの簡素化などを通じて、樹脂使用量そのものを削減する取り組みが各社で進められています。あわせて、商品点数を整理・集約することで、限られた資材を優先度の高い商品に振り向けるといった対応も見られます。
さらに、価格転嫁の仕組みづくりも欠かせません。原材料費や物流費の上昇分を適切に価格に反映できるよう、取引先との交渉プロセスをあらかじめ整えておくことが、急激なコスト変動に対する耐性を高めることにつながります。四半期ごとの価格改定ルールを明確化しておくことも、有効な手段の一つです。

まとめ

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2026年のナフサ市場は、中東情勢の急変を引き金に、価格の急騰と急落を繰り返す異例の展開となりました。2026年7月時点では、ナフサ価格自体は3月・5月のピーク時と比べると落ち着きを見せているものの、円安の長期化や現物調達の逼迫といった構造的な要因は依然として残っています。その影響は包装資材や物流費といった「周辺コスト」を通じて、食品業界を中心に幅広い分野へと波及し続けています。
帝国データバンクの調査でも、包装資材物流費がそろって値上げ要因の7割を超えるという、これまでにない事態が明らかになっています。原材料価格が仮に落ち着いたとしても、容器や配送網といった代替の効きにくいコストが損益分岐点を押し上げているため、企業の自助努力だけでは吸収しきれない領域に入りつつあるのが実情です。2026年7月は食品を中心に2,000品目を超える値上げが予定されており、今後も8月・9月にかけて値上げの動きが続く見通しです。私たち消費者としても、単発のニュースに一喜一憂するのではなく、原材料・物流・包装資材という3つの視点から価格動向を継続的にチェックしていくことが大切だと言えるでしょう。

よくある質問

Q1ナフサとは具体的にどのようなものですか?
ナフサは原油を精製して得られる無色透明の液体で、プラスチック合成ゴム合成繊維塗料印刷インキなど、身の回りのほぼすべての石油化学製品の原料になっています。ペットボトル食品トレーフィルム包装なども、ナフサから作られるエチレンやプロピレンを経て製造されています。
Q2なぜ2026年にナフサ価格が急騰したのですか?
2026年2月末に中東で軍事衝突が発生し、原油や石油製品の重要な輸送ルートであるホルムズ海峡が事実上封鎖される事態となったことが直接のきっかけです。日本はナフサの多くを中東からの輸入に依存しているため、供給網が大きく揺らぎました。
Q32026年7月時点でナフサ価格はどうなっていますか?
5月16日の1トンあたり1,043ドルというピークから6月上旬には700ドル台半ばまで下落しており、価格自体は落ち着きを見せています。ただし円安の長期化により国内の実質的な調達コストは依然として高い水準にあり、現物の供給逼迫も完全には解消していません。
Q4なぜ食品の値上げが続いているのですか?
食品の値上げは原材料費の上昇だけでなく、包装資材(トレーやフィルムなど)や物流費の上昇が大きな要因になっています。帝国データバンクの調査では、包装資材と物流費がいずれも7割を超える値上げ要因となっており、原材料価格が落ち着いても値上げが続く構造になっています。
Q5今後、値上げはいつまで続くのでしょうか?
2026年7月は2,269品目の値上げが予定されており、8月・9月にも単月1,000品目を超える可能性が指摘されています。中東情勢が完全に安定するまでは、包装資材や物流費といった周辺コストの高止まりが続くと見られており、当面は値上げの動きが継続する見通しです。
Q6企業としてどのような対策が考えられますか?
調達先の多様化(中東以外からの輸入拡大や代替原料の活用)、包装資材の薄肉化や代替素材への切り替え、商品点数の集約、そして価格転嫁の仕組みづくりなどが有効な対策として挙げられます。サプライチェーン全体を見直し、特定の地域や原料への依存度を下げることが、今後のリスク対応の鍵になります。
Q7政府はどのような支援策を行っていますか?
政府は2026年7月から9月までの3か月間、電気・ガス料金について1世帯あたり計5,000円程度の支援を実施するほか、LPガス利用者向けの重点支援地方交付金、ガソリン補助金の継続(全国平均170円水準の維持)、国家備蓄石油の段階的な市場放出などの対応を進めています。