日本の企業経営を取り巻く環境は2026年を迎えるにあたり、大きな転換点に差し掛かっています
背景にあるのが、少子高齢化の進行社会保障制度の持続可能性を確保するための一連の制度改正です。
社会保障費の増加は国や個人の問題として語られることが多くありましたが、今後は企業負担の増加がより明確な形で経営に影響を及ぼす局面に入ります。
本章では2026年以降を見据え、企業経営に影響する制度変更を踏まえたうえで、企業のコスト削減策について見ていきます。

子ども・子育て支援金の導入

子ども・子育て支援金の導入

2026年から新たに導入される制度として注目されているのが「子ども・子育て支援金制度」です。
これは、少子化対策を強化するための安定的な財源を確保する目的で創設されるもので、従来の子育て支援施策とは異なり、より広い層からの負担を前提とした仕組みになっています。
これまで子育て支援は国や自治体の一般財源、あるいは既存の社会保険制度の枠内で賄われてきました。しかし、出生率の低下が想定以上のスピードで進む中、従来の財源構造では十分な支援を継続できないという課題が顕在化しました。
その結果、「社会全体で子育てを支える」という理念のもと、新たな財源として支援金制度が設けられることになったのです。
支援金は健康保険を通じて徴収されるため、企業は従業員一人ひとりに対して新たな負担を抱えることになります。給与水準や従業員数によって負担額は変動し、人件費比率の高い企業ほど影響が大きくなります。
特に、近年の賃上げ要請に応じて給与水準を引き上げてきた企業や、人材確保のために積極的に採用を進めてきた企業は、支援金負担の増加をより強く実感する可能性があります。
また、支援金は企業規模に関わらず広く負担が求められるため、価格転嫁が難しい中小企業にとっては収益を圧迫する要因となりやすい点にも注意が必要です。
特に、原材料費やエネルギーコストの高騰が続く中で、さらに人件費関連の負担が増えることは、経営の柔軟性を奪いかねません。

子ども・子育て支援金が企業経営に与える影響

子ども・子育て支援金が企業経営に与える影響

支援金の導入は、単に「負担が増える」という表面的な話にとどまりません。
企業にとっては、人件費構造の見直し・採用戦略の再検討・価格設定の調整といった複数の領域に影響が及びます。
まず、人件費比率の高い業種──たとえばサービス業、介護・福祉、飲食、小売など──では、従業員数が多いほど支援金負担が積み上がりやすく、利益率を圧迫する可能性があります。
また、給与水準が高い企業ほど負担額も増えるため、優秀な人材を確保するために賃上げを行ってきた企業ほど影響が大きくなるという逆説的な構造も生まれます。
さらに、支援金は企業規模に関係なく徴収されるため、価格転嫁が難しい中小企業にとっては特に重い負担となります。
大企業のようにスケールメリットを活かして吸収することが難しく、結果として利益率の低下や投資余力の減少につながる可能性があります。

社会保険の適用拡大

社会保険の適用拡大

2026年に向けて、社会保険の適用範囲も段階的に拡大される見込みです。
これまで社会保険は正社員を中心としたフルタイム労働者が対象でしたが、短時間労働者やパートタイム労働者の増加により、同じ職場で働きながら社会保険に加入できない人が多く存在する状況が問題視されてきました。
この不公平感を是正し、老後保障や医療保障を安定させる目的で進められているのが適用拡大です。
企業規模要件や労働時間要件の見直しが進むことで、これまで対象外だった層が新たに社会保険加入の対象となり、企業の負担は確実に増加します。
特に、短時間労働者を多く抱える小売・飲食・サービス業では、経営に与えるインパクトが大きくなる可能性があります。
これまで時給ベースで人件費を抑えてきたとしても、社会保険料の事業主負担が発生することで実質的なコストは大幅に上昇します。

社会保険の適用拡大が人件費に及ぼす影響

社会保険の適用拡大が人件費に及ぼす影響

社会保険の適用拡大によって最も大きな影響を受けるのが、非正規雇用を多く活用している企業です。
これまで時給ベースで人件費を抑えてきたとしても、社会保険料の事業主負担が発生することで実質的なコストは大幅に上昇します。
表面的な給与額は変わらなくても、企業が負担する健康保険料・厚生年金保険料・子ども・子育て支援金が加わることで、人件費総額は確実に増加します。
特に、短時間労働者を多く抱える小売・飲食・サービス業では、経営へのインパクトが大きくなる可能性があります。

二つの制度が重なることによる複合的負担

二つの制度が重なることによる複合的負担

子ども・子育て支援金の導入と社会保険の適用拡大は、それぞれ単独でも企業負担を増やしますが、同時に進行することで複合的な影響を及ぼします。
これまで社会保険の対象外だった短時間労働者が新たに加入対象となる場合、その分だけ支援金負担も増加します。
つまり、適用拡大によって対象者が増えるほど、社会保険料支援金の双方が増えるという“負担の連鎖”が発生するのです。
この点を理解せずに従来通りの人員配置や雇用戦略を続けると、想定以上のコスト増に直面する可能性があります。
制度変更を正確に把握し、事前にシミュレーションを行うことが経営リスクを抑える鍵となります。

人件費構造を根本から見直す必要性

人件費構造を根本から見直す必要性

これらの制度改正を受け、企業には人件費構造そのものを見直す姿勢が求められます。
単純な賃金抑制は採用難や人材流出を招きやすく、長期的には企業価値を損なう恐れがあります。
重要なのは、業務量と人員配置の適正化を通じて、無理のない形で人件費効率を高めることです。
業務の棚卸しを行い、本当に人の手が必要な業務と、改善や自動化が可能な業務を切り分けることで、コスト削減の余地が見えてきます。
また、業務プロセスの見直しは単なるコスト削減にとどまらず、従業員の負担軽減や生産性向上にもつながります。
結果として、離職率の低下採用力の向上といった副次的なメリットも期待できます。

業務効率化による間接コストの削減

業務効率化による間接コストの削減

人件費以外にも、日々の業務に潜む非効率が原因で発生している間接コストは少なくありません。
紙資料の多用やアナログな承認フロー、担当者ごとに異なる管理方法などは、気づかないうちに時間と手間を浪費し、結果として大きなコスト増につながります。こうした非効率は一つひとつが小さく見えても、積み重なると年間で相当な作業ロスを生むこともあります。
このような課題に対しては、業務のデジタル化システム導入が非常に有効です。会計処理・勤怠管理・請求業務といった定型作業をシステム化することで、作業時間の短縮だけでなく、ヒューマンエラーの削減にもつながります。さらに、紙資料の削減によって印刷費や保管スペース、郵送コストなどの目に見える経費も抑えられます。
加えて、データが一元化されることで情報の検索性が向上し、担当者間のコミュニケーションロスも減少します。これにより、経営判断に必要なデータが迅速に揃い、意思決定のスピードが向上する点も大きなメリットです。
業務効率化は単なるコスト削減にとどまらず、組織全体の生産性を底上げする基盤づくりでもあります。

固定費の見直し

固定費の見直し

オフィス賃料や設備費、通信費といった固定費は、売上の増減に関係なく発生するため、企業の収益を圧迫しやすい要素です。特に景気変動の影響を受けやすい業種では、固定費が高いほど利益率が不安定になりやすく、早めの見直しが重要になります。
具体的な対策としては、オフィスの縮小や移転、在宅勤務の活用によって賃料や光熱費を抑える方法があります。リモートワークが一般化した今、従来の広さを維持する必要がなくなった企業も多く、フリーアドレス化やシェアオフィスの併用など、柔軟な働き方に合わせたスペース最適化が現実的な選択肢になっています。
設備投資についても、購入ではなくリースやサブスクリプションサービスを活用することで、支出を変動費化し、資金繰りの安定につなげることができます。特にIT機器やソフトウェアは更新サイクルが早いため、必要な期間だけ利用する方が合理的なケースも増えています。
固定費の見直しは即効性が高く、企業規模を問わず取り組みやすい施策です。小さな見直しでも積み重ねることで年間の支出に大きな差が生まれるため、定期的に棚卸しを行い、現状に合ったコスト構造へのアップデートをしていくことが大切です。

外注と内製のバランスを見直す

外注と内製のバランスを見直す

業務の外注は、専門性の確保や人件費の抑制に有効ですが、内容によっては割高になったり、依頼範囲が曖昧なまま進むことで無駄なコストが発生する場合もあります。そのため、外注は「便利だから使う」のではなく、費用対効果を踏まえて活用する姿勢が重要です。
定期的に外注業務を棚卸しし、「外部に任せるべき業務」と「内製化した方が効率的な業務」を見極めることが欠かせません。特に、社内にノウハウが蓄積されてきた業務や、ルーティン化している作業は、内製化することでコスト削減や業務スピードの向上が期待できます。
一方で、専門性が高い業務や繁忙期だけ発生する一時的な業務は、外注を活用した方が合理的なケースも多くあります。すべてを内製化するのではなく、業務の性質や頻度に応じて柔軟に判断することが大切です。
外注と内製のバランスを最適化することで、コスト削減と品質向上の両立が可能になります。どの業務をどの方法で行うのが最も効率的かを見直すことが、これからの企業経営における重要な視点です。

まとめ

本章では、社会保障負担増に備えた企業のコスト削減策について整理してきました。
子ども・子育て支援金の導入と社会保険の適用拡大は、2026年以降の企業経営において避けて通れない重要な制度変更です。
早期にシミュレーションと対策を講じることが、将来の経営安定につながります
制度改正が頻発する時代において持続可能な成長を実現するには、変化を前向きに捉え、戦略的に対応する姿勢が求められます。