2025年の秋、企業を取り巻く金融環境が大きく変化しています。

日銀は2024年3月にマイナス金利政策を終了し、その後はプラス金利のもとで運営を継続。2025年10月30日の金融政策決定会合では政策金利が据え置かれましたが、長期金利(10年国債利回り)は1%台後半で推移し、資金調達コストは数年ぶりの水準に上昇しています。

これまで「超低金利」を前提に経営を組み立ててきた中小企業にとって、資金の回し方を見直す局面が来ています。

融資の利息負担がじわじわ増え、金融機関の審査もより慎重に。

それでも、この金利環境の変化は「危機」ではなく「チャンス」にもなり得ます。
もちろん、負担は増えますが、だからこそ経営の基盤を見直し、資金の流れを健全化するきっかけにもできるのです。

今回は、金利上昇局面における資金調達の新戦略と、経営者が今取るべき“次の一手”を整理します。

なぜ金利が上がっているのか

金利上昇の背景には、日銀の政策正常化と国内外のインフレ圧力があります。
日本銀行は2024年3月、長く続いていたマイナス金利政策を解除し、「異次元緩和」から段階的な脱却を進めました。これにより、市場金利は実勢に沿ってじわじわと切り上がり、資金の“価格”としての金利が本来の役割を取り戻しつつあります。

背景には、世界的なインフレ動向もあります。アメリカや欧州ではすでに利上げ局面が一段落し、金利を高めに維持することで物価の安定を図る政策が続いています。日本もようやくその流れに追随する形で、過度な円安や物価高への対応を急いでいます。

一方、国内ではエネルギー価格や人件費の上昇が止まらず、企業経営にもじわじわとコスト負担が広がっています。
こうした状況を受けて、日銀は急激な利上げを避けつつも「引き締め方向の姿勢」を崩していません。
2025年10月時点では追加利上げは見送られましたが、政策金利はプラス圏に定着し、長期金利(10年国債利回り)も1.6〜1.7%台で安定推移しています。

つまり、今の金利上昇は一時的な景気循環ではなく、「構造的な転換期」と考えるべき段階に来ています。低金利を前提にした経営モデル──たとえば“借入前提の拡張”や“薄利多借り”のスタイルは見直しが必要です。

金利が「上がる」ことは単なる負担増ではなく、「お金の価値」や「資金の使い方」を見直すきっかけにもなります。

金利上昇が中小企業にもたらす3つの影響

金利上昇は「借入の返済額が増える」という単純な話にとどまりません。
実際には、企業の資金繰り・投資・経営判断のすべてに影響を及ぼします。

借入コストの上昇
変動金利で融資を受けている企業は、金利が0.5%から1.0%に上がるだけで、1億円の借入では年間約50万円、5億円なら250万円の追加負担になります。

この差額は利益を圧迫するだけでなく、資金繰りの柔軟性を奪います。特に複数行から融資を受けている企業や、短期借入を繰り返している業種では、じわじわとキャッシュフローを蝕む結果になりかねません。

また、銀行が金利上昇分を即時反映するケースも増え、従来の「安定した金利負担」という前提が崩れつつあります。

新規融資の審査が厳格化
金融機関の姿勢も明確に変化しています。
2025年に入り、銀行は融資先を「業績」ではなく「返済能力とキャッシュフロー」で評価する傾向を強めています。つまり、決算上の黒字よりも「手元資金がどれだけ回っているか」が重視される時代です。

このため、資金繰り表の提出や、資金計画の具体的な説明を求められる企業が増加中。経営者の“数字感覚”そのものが、融資条件を左右する時代に入ったと言えるでしょう。

投資・成長戦略の鈍化
金利が上がると、投資回収までのハードルも上がります。
たとえば、1億円の設備投資を金利1.0%で行う場合、0.5%時代と比べて年間利息は約50万円増。単体では小さく見えても、複数案件が重なれば無視できないコストです。

結果的に、新規設備や店舗展開、採用強化といった“攻めの施策”を見送る企業も出ています。これは単なる慎重さではなく、借入コストを含めた投資判断の再設計が必要になったということです。

この3つの要因が重なると、「利益は出ているのに現金が減っていく」という黒字倒産リスクも高まります。
したがって今後の資金計画では、金利上昇を“避けるもの”ではなく、“織り込むもの”として設計することが重要です。

今見直すべき資金調達の選択肢

金利上昇局面では、「銀行融資」だけに頼る資金調達はリスクを伴います。
重要なのは、複数の選択肢を組み合わせながら“金利に影響されにくい現金確保”の仕組みをつくることです。

以下は、2025年10月時点の金利環境を踏まえた主要な資金調達手段の比較です。

資金調達手段特徴メリット留意点
銀行融資(変動金利)市場金利に連動して支払額が変動当初金利が低く、短期資金に有効金利上昇時に返済額が増加するリスク
銀行融資(固定金利)契約時の金利が変わらず安定将来の金利上昇を回避できる初期金利は変動型より高く設定されやすい
ファクタリング売掛金を早期に現金化審査が早く、即日資金化が可能手数料が発生し、継続利用は利益圧迫に注意
リース・割賦設備投資や導入費用を分割支払い初期コストを抑え、最新設備を導入しやすい契約期間が長く、途中解約が難しい
補助金・助成金国や自治体の制度を利用返済不要で資金繰りを安定化申請~採択まで時間と労力がかかる

今のように金利が上がりつつある局面では、「固定金利+ファクタリング」の組み合わせが有効です。
長期資金は固定で安定化させ、短期資金は売掛金を現金化してスピード対応。こうした“短長分離”の考え方は、銀行依存を減らすうえでも効果的です。

また、リースや補助金も見逃せません。
金利負担の影響を受けにくい制度を活用することで、実質的な“無利子資金”を確保できます。特に中小企業庁や自治体の補助金は、設備導入・IT化・人材育成など幅広い用途で利用可能です。

資金調達は「借りる」だけでなく、「回す」「活かす」へ。

社内に眠る資産をどう動かすか、キャッシュをいかに止めないか──この発想が、金利変動期を生き抜く経営の鍵になります。

金利上昇に強い企業の共通点

金利が上昇しても安定した経営を続けられる企業には、明確な共通点があります。
それは「数字の見える化」と「先手の行動」が徹底されていることです。

① キャッシュフローを常に可視化している
金利変動に強い企業は、資金の“流れ”を日常的に把握しています。
資金繰り表を毎月更新し、「どのタイミングで現金が増減するのか」を把握することで、余裕を持って対策を講じています。
単に会計上の黒字を追うのではなく、「現金残高を経営の物差し」にする姿勢が根本にあります。

② 借入ポートフォリオを分散している
一つの金融機関や金利タイプに偏らず、変動と固定を組み合わせてリスクを分散しています。
たとえば「長期資金は固定」「短期運転資金は変動」といった設計により、上昇リスクを平準化。
また、メインバンク以外にもサブバンクを確保しておくことで、資金調達の柔軟性を保っています。

③ 「3か月分の資金ルール」を徹底している
強い企業ほど、急な売上減や支払い遅延が起きても3か月は持ちこたえられる現金を確保しています。
それは単なる防御策ではなく、「余裕があることで好機に動ける」という経営哲学。
資金の余力は、判断の自由度そのものです。

④ 銀行との関係性を“点”ではなく“線”で築いている
金利上昇時には、銀行とのコミュニケーション頻度が成果を分けます。
決算期だけでなく、四半期単位で面談を重ねることで、状況共有と信頼の積み重ねを行っています。
情報を先に出すことで、融資条件や対応スピードも格段に変わります。

これらの共通点に共通するのは、「変化を恐れず、仕組みで備えている」ということ。
金利の動きそのものはコントロールできませんが、“どう備えるか”は経営者の意思で変えられる。
この意識を持てる企業こそ、どんな環境変化にも揺るがない体質を築いていきます。

経営者が今すぐできる実践アクション

金利上昇局面では、変化を「待つ」のではなく「設計する」姿勢が重要です。
市場動向を読み切ることは難しくても、社内でできる対策は数多くあります。

ここでは、すぐに着手できる5つのアクションを紹介します。

借入条件を見直す
まずは既存の借入契約を棚卸しし、固定金利化や一部繰上返済を検討しましょう。
変動金利の割合が大きい場合、返済額が増える前にバランスを調整しておくことが重要です。
また、借入金利の見直し交渉やリファイナンスも、金利上昇初期の今が動きどきです。

✅ ファクタリングやリースを検討する
金利に左右されない資金調達として、売掛金を現金化するファクタリングや、設備導入を分割化するリースの活用も有効です。
これらは“返済義務がない資金”として、借入依存のリスクを下げます。
特に月末の支払いが重なる企業では、数日単位でのキャッシュ確保が資金繰り安定の鍵になります。

運転資金の最適化
資金繰りが厳しくなる局面では、「余分な運転資金」を見直すことが効果的です。
在庫の回転率、外注費の支払いサイクル、仕入れ先との取引条件を再検討し、“1日でもキャッシュを手元に残す”意識を持ちましょう。
1日の繰り延べが1か月後には大きな違いを生みます。

✅ 銀行との関係性を深める
金利上昇期こそ、金融機関との距離を縮めるチャンスです。
単発の相談ではなく、四半期ごとに状況を共有する「ミニ決算報告」や「資金繰り会議」を設定しましょう。
銀行担当者との対話を重ねることで、金利交渉・条件変更・追加融資など、より柔軟なサポートが得られやすくなります。

✅ 資金繰り表を6か月先まで拡張する
3か月先の資金繰りでは、変動金利の影響や支払いの山が見えづらくなります。
6か月先を見通す資金繰り表を作成し、「どの時点で資金が減るか」「どこで補填するか」を可視化することが重要です。
数字を“見える化”すれば、感覚ではなく根拠に基づいた経営判断ができるようになります。

金利上昇は避けられない環境変化ですが、その中で「動ける経営者」と「止まる経営者」の差が明確に出ます。
焦る必要はありませんが、準備の早さが次の一手を決めます。
“今できることを一つずつ”──それが金利変動を味方に変える第一歩です。

金利変動を恐れない、しなやかな経営へ

金利の上昇は企業にとって確かに負担ですが、それを「制約」ではなく「指針」として捉える企業こそ、次の時代に強く生き残ります。

金利が上がれば借入コストは増えますが、その分“現金を生む力”が問われるようになります。
これは決してマイナスではなく、企業の体質を健全化するチャンスです。
金利を読むよりも、金利に影響されない経営基盤をつくること──それが本質的な対応です。

金利変動に強い企業は、単にコストを抑えるのではなく、資金の流れを“設計”しています。
毎月の資金繰り表をもとに、借入・支出・回収をシミュレーションし、利益よりもキャッシュフローを軸に判断する。
つまり、数字を「結果」ではなく「未来を読むツール」として扱っているのです。

この姿勢こそ、変化の時代における最大の武器。

金利が上がっても下がっても揺るがない経営体制──それは、一朝一夕で作られるものではありません。
日々の管理と小さな改善を積み重ね、財務の筋肉を鍛えていくこと。
その継続が、どんな環境下でも“資金に困らない経営”を実現します。

【主な対策と特徴まとめ】

区分対策期待できる効果
借入管理変動と固定のバランスを取る返済負担を平準化し、リスクを分散
キャッシュ運用売掛金の現金化・内部資産の活用金利に左右されない資金確保
投資判断設備・人材投資の慎重化無理のない成長戦略の実現
銀行連携面談・情報共有の定期化信頼関係を深め、交渉を有利に進める
経営管理資金繰り表の長期化将来の資金ショートを未然に防ぐ

🔑 本章のまとめ

金利上昇は避けられない変化ですが、恐れる必要はありません。大切なのは「金利に振り回されない経営体質」を整えることです。借入条件の見直しやファクタリングの活用、キャッシュフロー重視の経営管理など、できることは必ずあります。金利を読むよりも、金利を前提に経営をデザインする。それが、2025年の経営者に求められる次の一手です。