経済の変動は企業の資金調達に大きな影響を与えます。
景気が上昇局面にあるときは金融機関の融資姿勢も比較的積極的であり、企業にとっては資金を確保しやすい環境が整います。
一方で景気が減速あるいは後退局面に入ると金融機関の融資は厳格になり与信審査のハードルも高まります。
このような状況に対応するためには経済環境に左右されにくい資金調達の仕組みを構築することが求められます。
本章では経済変動に負けない安定した資金調達について見ていきます。
資金調達手段の多様化がもたらす安定性
ひとつの資金調達手段に依存している企業ほど経済変動に対して脆弱になります。
銀行融資に頼り切っている場合、その銀行の融資姿勢が変わればたちまち資金繰りに支障をきたす可能性があります。
こうしたリスクを軽減するためには資金調達の手段を多様化することが不可欠です。
金融機関からの融資に加えて社債発行やファクタリング、リース、クラウドファンディングなど複数のチャネルを持つことで、特定の経路が不調となっても他でカバーできる体制が整います。
また各手段にはそれぞれの特徴やメリット・デメリットがあるため、状況に応じて最適な選択を行うことが可能となります。
ファクタリングの柔軟性を活用した資金調達
注目すべき手段の一つがファクタリングです。
ファクタリングは売掛債権を第三者に譲渡することで期日前に現金化する仕組みです。
売上があっても資金化までにタイムラグがあるという問題を解消でき、運転資金の安定供給が可能となります。
経済環境が不透明な時期においてもファクタリングは比較的利用しやすい資金調達方法です。
金融機関の審査と異なり、売掛先の信用状況が重視されるため自社の財務状況が一時的に悪化していても活用できる利点があります。
ファクタリングは借入ではないためバランスシートへの影響も最小限に抑えられ、財務指標の健全性を保つことができます。
金融機関との信頼関係の構築
資金調達を安定させるには金融機関との関係構築も意識しなければなりません。
金融機関にとって貸し手が信頼できる存在であることは重要であり、日頃からの情報共有やコミュニケーションの積み重ねが信頼構築につながります。
定期的な決算報告や事業計画の提示、業績見通しの共有などを通じて経営者が自社の状況を正直かつ前向きに伝える姿勢を見せることで金融機関は安心感を抱きます。
万一業績が悪化するような場面でも、事前に相談し対策を講じる姿勢を見せることが資金支援を得るうえで有利に働きます。
銀行との関係では債務者となる立場の事業者がこの点で手間を被ることになります。
キャッシュフローの管理と資金繰り表の重要性
安定した資金調達の前提としてキャッシュフローの正確な把握が必要です。
売上や利益だけを見ていても、実際の現金の流れを把握していなければ資金ショートを防ぐことはできません。
そのため資金繰り表を作成し、今後の入出金の見通しを明確にしておくことが大切です。
資金繰り表を通じて、どの時点で資金不足が発生しそうか、どのタイミングで資金の余裕ができるかを視覚化することで先手を打った資金調達が可能になります。
自己資本の強化と内部留保の確保
外部からの資金調達に頼りすぎることは経済変動による外的リスクにさらされやすくなります。
そこで重要になるのが自己資本の強化です。
内部留保を積み重ね自己資本比率を高めておくことで外部環境に左右されにくい経営体制が築けます。
利益が出た際に全てを配当や設備投資に回すのではなく、一定割合を内部に留保し将来の投資や不測の事態に備える体制を整えることが肝要です。
中小企業では自己資本が薄くなりがちなため、計画的に資本蓄積を行う姿勢が求められます。
リスクマネジメントを意識した経営戦略
資金調達を安定させるには経営全体においてリスクマネジメントの考え方を取り入れることも求められます。
資金繰りリスク、金利リスク、信用リスクなどさまざまなリスクを洗い出し、それに対する備えを講じておくことが重要です。
金利上昇に備えて固定金利型の融資を選ぶ、複数の売掛先を持って特定の取引先に依存しないようにするなど、具体的な対策を講じることができます。
非常時のための緊急融資枠の確保や、資金調達先のバックアッププランを常に検討しておくことも経済変動時における迅速な対応を可能にします。
経済指標の定期的なチェックと先読み力
経済環境の変化をいち早く察知するためには各種経済指標や金融政策の動向を日常的にチェックする習慣が大切です。
GDP成長率、消費者物価指数(CPI)、日銀の金融政策決定会合の内容などを把握しておくことで将来的な金利や融資姿勢の変化を予測し、早めの対応が可能になります。
業界動向や競合他社の動きにも注視し、自社のポジショニングを適切に調整することで変化に柔軟に対応できる体制を維持できます。
経営者自身が情報の感度を高め、将来を見据えた判断を行えることが安定した資金調達の実現に直結すると考えましょう。
ファクタリングの種類と活用方法
機動的な資金調達としてお勧めできるファクタリングには「2社間ファクタリング」と「3社間ファクタリング」「医療報酬ファクタリング」があります。
2社間ファクタリングは売掛先には通知せず、自社とファクタリング会社の2社だけで契約を行う方式です。
売掛先との関係に配慮が必要な場合や、取引の継続性を重視する企業に向いています。
ただし売掛債権の確認が取りづらいため手数料がやや高めになる傾向があります。
3社間ファクタリングでは売掛先も取引に関与し、債権の譲渡を認める方式となります。
その分信用性が高く手数料も比較的抑えられる点が利点です。
医療機関や介護事業者に特化したファクタリングも存在し、診療報酬や調剤報酬、介護報酬を対象に資金化が可能です。
これらの業種は入金までに時間がかかる傾向があるため、キャッシュフローの安定化に有効です。
自社の業種や売掛先の性質に応じて適切なファクタリングを選ぶことが資金繰り改善に直結します。
中小企業こそ重視すべき地域金融機関との連携
全国展開する大手銀行と比べ、地域金融機関は地元企業との密接な関係を重視します。
信用金庫や信用組合は地域経済の担い手である中小企業に寄り添う姿勢が強く、業績だけでなく人間関係や地域貢献度など定量化できない要素も判断材料とすることがあります。
地域金融機関と信頼関係を築くには、金融機関の担当者と定期的に面談を行い自社の取り組みや課題を率直に伝えることが第一歩です。
また経営計画書や資金繰り計画の提出など情報の可視化と整備を心がけることも重要です。
中長期的な視点で資金提供を受けたい場合は事業性評価融資や協調融資の活用も視野に入れるとよいでしょう。
最近では地域金融機関が主催するビジネスマッチングや商談会に参加することで新たな販路開拓や業務提携のチャンスが得られることもあります。
資金調達に限らず、経営全体に好循環をもたらすためのパートナーとして地域金融機関を活用していく視点が求められます。
非金融的手段によるキャッシュ創出戦略
資金調達というと外部からの資金流入にばかり目が向きがちですが、社内にある資源を最大限に活用することでもキャッシュの創出は可能です。
棚卸資産の圧縮や不動産の売却、遊休資産の処分などは直接的なキャッシュを生み出す手段となります。
売掛金の回収スピードを速めるために請求書の発行・送付のタイミングを前倒しにしたり、入金条件の見直しを行ったりすることも効果的です。
支払サイトが長い取引先との条件見直しが可能であれば、それだけで資金繰りの改善が期待できます。
業務の無駄を省き、生産性を向上させることで人件費や間接コストの削減にもつながります。
近年ではAIやクラウドツールの導入によってバックオフィス業務を自動化し、コストを抑える企業も増えてきています。
資金調達に頼らず、収益性と効率性を高める努力が結果的に安定した資金繰りに結びつきます。
まとめ
本章では経済変動に負けない安定した資金調達のコツについてみてきました。
経営者自身が金融に関する知識を持ち、リテラシーを高めていくことが何よりの資金調達の基盤となります。
資金繰りや財務諸表の読み方、金融機関の審査視点などを理解することで適切なタイミングでの資金確保が可能になり、無駄な資金調達コストを抑えることにもつながるからです。
専門家に頼ることも有効ですが、すべてを任せきりにするのではなく、自らの意思で数字を読み解き、経営判断を下すことが重要です。
定期的にセミナーや講習会に参加したり、中小企業診断士や税理士と連携するなどして最新の金融動向をキャッチアップしていきましょう。