人手不足が叫ばれるようになって数年経ちますが、その声はどんどん強まっています。
筆者の身の回りでも、お気に入りのパン屋さんがスタッフを確保できず、開店時間がお昼前に終わってしまうということを目の当たりにしています。
各業界、各企業で人材獲得に腐心していると思われますが、この回では社員の定着率を上げるメリットなどを押さえつつ、定着率向上のためのポイントをいくつか見ていきたいと思います。

国内企業の定着率はどうなっている?

国内企業の定着率はどうなっている?

最初に定着率の定義を簡単に押さえますが、「定着率」という指標が公表されているわけではありません。
国は「離職率」という指標を公表していて、これは会社を辞めた人の率です。
この反対が辞めずに残った人の率となり、これを定着率という言葉で表現します。
国が公表する離職率から定着率を割り出すと、全体では概ね85%の定着率となるようです。
10人雇うと1~2人が辞めてしまうという計算ですが、業界によってはさらに数字が厳しくなります。
飲食や宿泊方面の業種では定着率がおよそ73%程度にまで落ちるので、辞めてしまった人材を補充するための手間や費用がかかり増しになります。
採用した人材の教育訓練には相当の時間と費用がかかりますから、一人も離職者がでないようにするのが経営者としての理想です。

定着率を上げる企業のメリット

定着率を上げる企業のメリット

定着率をあげることで企業には以下のようなメリットが生まれます。

①人材の獲得・育成コストの削減

まずは上でも触れたように新規人材の獲得や育成にかかるコストを減らすことができます。
人材の育成には時間がかかり、戦力になるまでの間は既存社員が育成業務も担いますから、それだけ本業への労働力投下がおろそかになり、売り上げの減少につながります。
単純業務のアルバイト等であればそのロスは比較的小さくて済みますが、基幹業務を担う正社員が一度辞めてしまうと企業としては大きな痛手です。
能力のある人材を獲得し、これを戦力人材レベルにまで引き上げるには相当の時間を要すので、まずは自社の人材を失わないように気を使う必要があります。

②生産性の向上

辞める人がでなければ、全社全力で売り上げアップに労力を投下できます。
イメージとして、お風呂の栓を抜いたままでお湯を溜め続けるのはどう考えても非効率で不経済です。
人材の流出が続く中で補充を繰り返すのはそれと似ていて、やはり非効率です。
人材が流出しないように栓をしっかり閉めておけば、生産性向上に全力を傾けることができます。
多くの収益を確保できれば賃金アップにもつながり、さらに社員の満足を高めることができるでしょう。

③対外的イメージの向上

人がすぐ辞める企業は印象が良くありません。
何らかの問題があるから辞める人が続いてしまうわけで、そういう会社は敬遠したくなりますよね。
社員から信頼を得ている会社は離職者が出ないので、外から見た印象が良くなります。
この影響は採用面だけでなく、取引拡大の面でも正の作用をもたらすので、事業運営面でも良い効果をもたらしてくれるでしょう。

定着率向上のポイントは?

定着率向上のポイントは?

ではここから定着率を上げるためのポイントを見ていきます。

①採用時のミスマッチを避ける

企業は人手が足りないと困りますから、魅力を感じた相手には自社をよく見せようとする傾向があり、これを信じて入社を決めた人との間で雇用のミスマッチが起こります。
特に起きやすいのが入社後の業務内容に行き違いがあるなど、聞いていた内容とは違う仕事をさせられるというトラブルです。
将来の配置換えなども含めて、業務内容は正確に伝えて面接時に共有しておく必要があります。

②ワークライフバランスを重視する

特に若い人は自分の時間を大切にしますから、会社としてワークライフバランスを重視する姿勢は非常に大切になります。
家庭を持っている人はもちろんですが、独身者でも自分の時間を大切にするのはごく普通の事です。
独り身だから少しくらい無理させてもいいだろうという考えを持っていると確実に嫌われてしまうので注意してください。

③給与面の適性化

昨今は昔ほど給与額の重要性は高くないとされていますが、それでも人が生きていくための原資ですし、趣味や自己実現を図る原資ともなるものですので、お給料が社員にとって重要なものであることに変わりはありません。
低すぎず高すぎない報酬額の設定や、成果に基づくインセンティブの導入なども検討しましょう。

④福利厚生の充実

福利厚生も昔ほど重要視されなくなっていると言われますが、住宅の補助や家族手当などは社員にとってかなり有難いものです。
福利厚生は人によって重要視するものとそうでないものがあるのが難しいところです。
ある人には嬉しい施策も、別の人にとってはそれほど嬉しくないということもあります。
できるだけ多くの従業員に訴求できるよう、アンケートを取るなどして自社の社員に喜ばれる福利厚生を導入できるように工夫しましょう。
最近は福利厚生の一環として、社員ウェルビーイングの考え方を模索する企業が増えています。
社員ウェルビーイングは簡単に言うと従業員の安心感や満足感を高めることを言います。
社員の立場として「会社が自分のことを大切に扱ってくれている」という実感を持ってもらい、その結果「この会社に貢献したい、ずっとここで働きたい」と思ってもらえれば簡単に離職を考えることはなくなります。
そして社員ウェルビーイングの施策の一つとしてファイナンシャルウェルビーイングを取り入れる企業も増えています。
これは社員の金融リテラシーを高めて資産運用や資産管理の能力を向上さる、iDeCoや企業年金、公的年金などについて情報を提供したり、個別の相談に応じるなどして社員の人生全般の伴走を行うようなイメージです。
社員としては、「この会社に勤めていれば自分の人生に寄り添ってくれる」という安心につながるので、簡単に離職を考えるようなことはしなくなります。

⑤評価制度の見直し

頑張ったのに評価されないとなると社員としてもやる気を削がれてしまいます。
貢献を適正に反映できる評価制度は社員のモチベーション維持に非常に重要です。
公平性を考えつつやる気を引き出せるような仕組みが必要で、これがなかなか難しいのですが、社長主導で専門家の意見も取り入れつつ検討しましょう。
例えばですが、結果を残した人は希望する部署や担当する職をある程度自由に選べるようにするということも考えられます。
人には得手不得手がありますし、自分の力を発揮しやすい仕事ができるのは社員としても嬉しいでしょう。
来年、再来年に希望する仕事につけるのであれば、苦手な仕事でも結果を出そうと積極的になってくれるかもしれません。

⑥就業環境の改善

最近は女性が多く活躍する時代になっていますから、より仕事がしやすい環境整備が望まれます。
綺麗で明るく、誰もが安心して仕事に取り組める環境を整備するのは経営者の仕事といって良いでしょう。
オフィスだけでなく休憩所や綺麗なトイレなどの整備も大切な要素です。

まとめ

本章では社員の定着率を上げるポイントについて見てきました。
せっかく雇った社員がすぐに辞めてしまうという問題は以前から指摘されていましたが、人手不足が加速する中でさらに経営者の悩みの種となっています。
「辞めたら補充すればいい」「代わりはいくらでもいる」と言えた時代はすでに終わり、優秀な人材を確保し、大切に育てるという意識が強く望まれる世の中になっています。
定着率を上げるポイントはいくつかあるので、自社でできるところから少しずつ改善を目指してください。