日本は社会保障がかなり手厚い国の部類に入ると思いますが、それでも国民の人生の多くの部分について国が積極的に面倒を見てくれるわけではありません。
自分の人生は自分で守ることを前提に我が国の自由主義は成り立っているので、生活にかかる資金の確保や管理についても基本的には自己責任です。
経営者が行う事業についても同様で、結局のところ、経営者は生活者としてのマネーリテラシーを身に着けた上で、さらに企業経営に関するマネーについても深く知らなければならないということです。
この回では経営者を念頭にしたマネーリテラシーについて考えてみましょう。
マネーリテラシーとは?
マネーリテラシーは金融リテラシーと呼ばれることもあり、簡単に言えばお金に関する知識を正しく身に着け、社会で適切な行動をとれるようにしましょうということです。
この概念にはお金に関する理解力や判断力、また必要な情報を自分で探す能力なども包含されます。
お金にはいわゆる金融商品に止まらずあらゆる商品やサービスが包含され、これらを購入する際に適切な判断を自分自身でできるようになることが望ましいとされています。
金融リテラシーはよりよい人生の構築に役立つのはもちろん、望ましくない行動を避けるためのものでもあり、生活者の視点では生活防衛に役立つ知識でもあります。
金融(マネー)リテラシーは今や基本的な生活をおくる上で必要不可欠なものであるという認識が持たれるようになり、学校教育の中にも取り入れられています。
一昔前は「お金に関する知識を付けるなんてはしたない」などと思われていた時代もありましたが、今では多くの人が金融リテラシーの重要性を理解するようになっています。
経営に求められるマネーリテラシーとは
では経営者に求められるマネーリテラシーとはどのようなものでしょうか。
経営者も生活者の一人ですので、基本的には生活者に求められるマネーリテラシーを身につける必要があります。
この素地の上に経営者としてのマネーリテラシーがあると思ってください。
経営者としてのマネーリテラシーは運営する企業体の管理能力、企業が行う投資能力、経営者が個人として行う投資能力などに影響します。
中でも重要なのが運営する企業の管理に関わることで、経営者であれば会社の事業成績や運営状況を理解する能力が必須になります。
財務諸表の見かたを理解して、各種の数値から自社の運営状況をつぶさに読み取る能力が求められます。
貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー表などの財務諸表には多くの情報が掲載されていますが、これ自体はただの数字ですので、これを読み取る能力が無いと状況を分析することができません。
財務諸表の読み取りに関しては経営者のマネーリテラシーの重要な部分を占めるといって良いでしょう。
そして経営実務を担う立場としては状況を分析するだけでは足りません。
先ほどの分析能力は、例えば税理士や中小企業診断士など外部のアドバイザー的立場の人物の力を借りることもできますが、会社の経営実務を担えるのはその会社の経営者だけです。
会社の切り盛りを外部に任せることはできませんから、事業計画を立てたり、財務計画を立案するといった経営実務に関するリテラシーは社長自らが身に付けないと会社が成り立ちません。
販路拡大の戦略を練るにも、財務戦略を練るにも経営者個人の能力が求められますから、マネーリテラシーが十分備わっていないと有効な戦略を練ることができず、事業が傾いてしまうかもしれません。
資金調達に関するマネーリテラシーは特に重要
経営者にとって非常に重要な任務の一つに資金調達があります。
資金繰りは財務戦略の一環として理解されますが、資金調達は外部の機関との接触も必要になり、どのような手段でどれだけの資金を、いつまでに用意するべきかといった複合的な要素も加味して考える必要があります。
資金調達では多様な手段を検討できる反面、リテラシーが無いとそれらの判断ができず、有利な資金調達手段を検討することができません。
外部から資本を注入することで財務基盤を強化するのか、返済負担を考慮しつつ借り入れによって運転資金を確保すべきか、自社資産を有効に活用して資金調達するのかを適切に判断しなければなりません。
さらにその後で個別具体的な調達手段の検討も必要です。
資本強化をするなら株式の引受機関をどうするか、第三者割当とするのかそれともベンチャーキャピタルの支援を検討するのか、当面の資金確保のために融資を受けるなら相談先をどの金融機関にするか、または社債を発行するなら公募するのか私募にするのかなどを考えなければなりません。
そのため各種資金調達法のロジックやメリット・デメリットを正しく理解していなければ有効な検討自体ができないことになります。
普段から会社の資金繰りに関する知識や情報を仕入れ、いざという時に活用できる状態にしておくことが肝要です。
その他経営者が身に付けるべき知識
経営者は従業員や自分自身のリタイア後の生活のことまで考えて制度設計することが求められます。
そのためには企業年金として確定拠出年金や確定給付年金、退職金制度として中小企業退職金共済制度や小規模企業共済、他にも国民年金基金など各種制度について知っておくことが望まれます。
普通の労働者はこれらに関しては基本的に会社任せですので、経営者が責任をもって制度について整理し、通知してやる必要があります。
確定拠出年金は話題のiDeCoも含まれ、企業年金の分野では注目度が非常に高まっています。
拠出する資金の額や出所を色々調整できる仕組みがあり、会社と従業員個人が協力して取り組むこともできるようになっています。
企業退職金制度の面では資金体力がない中小零細企業のための中小企業退職金共済制度や、労働者性のない経営者や役員のための退職金確保として小規模企業共済があるので必要に応じて活用を検討しましょう。
日常の実務では社会保険料の標準報酬の計算やその改定ルールなどについても知っていなければなりません。
経営者は本当に色々な知識や情報について知っていなければならない立場ですので大変です。
関連するセミナーや勉強会などには積極的に参加してマネーリテラシーの向上に努めてください。
まとめ
この回では経営者を意識したマネーリテラシーの基本について見てきました。
経営者には生活者視点のリテラシーに加えて会社経営にかかわる特有のマネーリテラシーが求められるので、日ごろから勉強して情報収集を怠らない姿勢が求められます。
自社の経営を正しく把握できる能力、これからの事業展開を進めていくための能力としてマネーリテラシーは大切な要素です。
経営者向け勉強会などを活用して、マネーリテラシーの向上に努めていきましょう。