企業経営における様々な問題や課題は必ずしも直接目に見えるものだけではありません。
問題の本質がどこにあるのか見抜くのが難しいことも多く、課題解決の道筋をつけにくい事例もあります。
そのような時でも、決算書を活用した経営分析ができれば問題の根本がどこにあるのか把握しやすくなります。
本章では決算書の見方や経営分析の基本について解説していきますので、ぜひ参考になさってください。

■決算書とは?何のために作る?

決算書とは?何のために作る?

決算書はその会社の財務状態や経営成績を数字にして表した書面です。
決算書には複数の種類があり企業規模等によって作成義務のあるものが違ってきますが、少なくともBSとPLについては押さえておかなければなりません。
BSとはバランスシートの略で、日本語では貸借対照表といいます。
貸借対照表はある一定時点の会社の資産や負債の状況がまとめられており、左側には資産の項目が、右側には負債と資本に関する項目が並んでいます。
左側の資産の部と、右側の負債および資産の部は数字的に均衡するため、バランスが保たれるという意味でバランスシートと呼ばれます。
PLは英語表記だと「Profit and Loss Statement」、日本語では損益計算書と呼ばれます。
損益計算書はその会社の売り上げや支出などお金の動きをまとめたもので、その会社の当事業年度の利益がどれくらいあるのかを把握できます。
両者を合わせて財務諸表といいますが、もっと簡単に決算書という呼び方をすることもあります。
決算書からは様々なことが読み取れるので、会社の問題点を把握するために利用したり、より良い経営を目指すために役員や株主などの参考資料として利用されたりします。
資金調達の場面では銀行側が返済リスクの算定のために必ず決算書の提出を求めますので、決算書からは何か重要なものが読み取れるのだということは理解できると思います。
決算書から読み取れる経営指標を用いて問題や課題の把握をすることを経営分析と言います。
次の項からは主な経営指標について見ていきます。

■収益性の指標

収益性の指標

収益性の指標はその会社の稼ぐ力を見抜く指標で、どれだけ効率的に利益を出せているかを見ることができます。
具体的な指標を以下で見てみます。

①ROA(総資本経常利益率)
会社が持つ資本でどれだけの経常利益を上げられたかを示します。
計算式は「経常利益÷総資本×100」です。
この数字が大きいほどに効率的に利益をだせていることになります。

②売上高営業利益率
売上高に対する営業利益の割合を示すのがこの指標です。
「営業利益÷売上高×100」
この数値が高いほど本業からの収益が多く、順調に進んでいることを示します。
この数値が悪いと余計なコストがかかっていることを示唆するので効率化を考えるきっかけになります。

③ 売上原価率
売上高に占める売上原価を示すのがこの指標で、数値が小さいほど収益性が高いと評価できます。
「売上原価÷売上高×100」
売上原価は仕入等にかかった費用を意味するので、売り上げ原価の数字が大きいとコストがかかり増しになっていると判断できます。

④売上高販管費率
売りあげ高に占める販売費および一般管理費の割り合いで、計算式は以下の通りです。
「販売費及び一般管理費÷売上高×100」
この数値は低いほど効率的に売り上げを上げていると判断できます。

■安全性の指標

安全性の指標

安全性の指標はその会社の支払い能力をみたり、財務面でのリスクを判断する際に利用されます。
融資などの場面で金融機関が必ずチェックする項目です。

①流動比率
短期的な支払い能力を見る指標で、流動資産と流動負債の比率により評価します。
「流動資産÷流動負債×100」
流動資産は概ね一年以内に現金化できる資産を、流動負債は概ね一年以内に支払いが必要になる負債です。
この数値は大きいほど安全で、100%を切るとハイリスクと評価されます。

②固定比率
企業の長期的な安全性を見るのが固定比率で、固定資産と自己資本の比率で評価します。
「固定資産÷自己資本×100」
長期間保有、運用する固定資産を、返済の必要がない自己資本でどれだけ賄えているかをみます。
この数値は100%を下回ると自己資本で固定資産を賄えていると評価できます。

③自己資本比率
総資産のうち自己資本が占める比率が自己資本比率です。
「自己資本÷総資産×100」
返済を求められることのない自己資本は安全性の高い資産ですから、自己資本比率が高いほど安全性が高いと評価できます。

■生産性の指標

生産性の指標

どれだけ効率的に成果を上げられているか示す指標です。

①労働生産性
従業員一人あたりの付加価値を算出するもので、計算式は以下の通りです。
「付加価値額÷従業員数」
付加価値は仕入から生産にかけてその企業で生み出された新たな価値のことで、算出方法は二つあります。
一つは「売上高-外部購入価値」で測る方法で、これを控除法と言います。
外部購入価値には材料費や運賃などが入ります。
もう一つは加算法といって、経常利益に人件費、賃借料、減価償却費、税金などを足して算出します。

②労働分配率
付加価値に占める人件費の比率で、以下のように計算します。
「人件費÷付加価値額×100」
この数値が高いと利益を出すために投入する人件費が高いと評価されます。
低ければ良いというわけでもなく、低すぎると低賃金で従業員をこき使っているとみられてしまいます。
適切な数値は業種や企業規模によって異なるので一律ではありません。

③資本生産性
投下資本がどれだけの付加価値を生んだかを見る指標です。
「付加価値額÷有形固定資産」
この数値が高いほど効率的に資本を活用できていると評価できます。

■活動性

活動性

利益を上げるためにどれだけ会社の資産を生かして活動できているかを見る指標です。

①総資本回転率
総資本を有効に活用できているかを見るもので、計算式は以下の通りです。
「売上高÷総資本」
少ない資本でより大きな売り上げを上げられると高評価となるので、この数値は少しでも高くなるのが理想です。

②売上債権回転率
売掛金を効率的に回収できているかを見る指標です。
数値が大きいと売掛金を早く回収できていることを示します。
「売上高÷売掛債権」
売り上げ高が売掛金に比して大きい、または売掛金が売上高に比して小さいほど数値が大きくなります。

③在庫回転率
一事業期間に在庫が何回入れ替わったのかが分かる指標で、計算式は以下の通りです。
「売上高÷棚卸資産」
この数値は一般的に高いほど高評価となります。

④固定資産回転率
固定資産がどれだけ利益を生んでいるかを示します。
固定資産は利益を生みだす母体であり、固定資産への投資を適切に行えているかどうかの判断材料になります。
「売上高÷固定資産」
理想の数値は業種等によって異なるので一律ではありませんが、数値が低い場合は固定資産に投入した投資額が過大であることを示唆します。

■まとめ

本章では経営分析の基本として決算書に書かれた数値の読み取り方について見てきました。
決算書の読み取りができると楽しいのでぜひ試してみてもらいたいと思いますが、経営指標は数が多く、一般的には取っつきにくさを感じる方が多いのも事実です。
経営者のであれば会計関連の勉強会で取り上げられることがあるので、ぜひ積極的に参加することをお勧めします。