まさに全世界が固唾をのんで注目したアメリカ大統領選挙は結果としてトランプ氏の勝利で決着が見られました。
当初はバイデン氏からバトンを受けたハリス氏が猛烈な追撃を見せ、支持率では若干有利との憶測も流れていたほどでしたが、結果を見ればトランプ氏の圧勝と言っていいほどの差が付いた形です。
第二次トランプ政権は来年1月に発足する予定で、現在は政権移行の準備段階となっています。
本章では第二次トランプ政権による政策がもたらす日本への影響について考えてみたいと思います。
■トランプ氏返り咲きで保護主義台頭へ
個別の政策を論じる前に、トランプ氏がそもそもどのような思考で統治を行うことになるのか知っておく必要があるでしょう。
トランプ氏は積極的な保護主義政策を強く主張するスタンスであることは押さえておかなければなりません。
保護主義というのは、対外関係において自国の産業や労働を保護することを優先する立場、主張をいいます。
世界各国はそれぞれ貿易を通じて必要な物を輸入し、自国の生産品を輸出して外貨を稼いでいますが、他国から安い輸入品が入ることで自国の同類の産業が競争で不利になることはどの国でも起こりうることです。
そのため、必要な範囲で高関税を課すことはあるのですが、妥当な範囲であれば保護主義と呼ばれることはありません。
例えば日本では主要な産業であるコメについては非常に高い関税をかけていて、これは日本国内の食糧生産技術や労働を守るため、海外の安いコメに負けてしまわないようにとの理由で実施されています。
アメリカの場合、日本とは比較にならないほどの多種多様な有力産業があり、例えば自動車、アルコール飲料、タバコなどは自国の産業を守るために高い関税をかけています。
必要な範囲であれば一般的に保護主義とはされないのですが、トランプ氏はこの政策をさらに強くし、高関税をかける品目をほぼ無制限にして、自国産業最優先、まさにアメリカファーストの施策を取ると宣言しています。
余りに高い関税を課すと世界の貿易バランスが崩れるため大変危険とされているのですが、トランプ氏は意に介しません。
何を言われてもアメリカ最優先だという態度が鮮明化しているため、保護主義だと言われるわけです。
■トリプルレッド獲得で政策推進が容易に
さらに、アメリカ国内では上院、下院とも選挙で共和党が優位となることから、共和党のトランプ氏は自身の政策を実施しやすい環境となります。
共和党のイメージカラーは赤で、大統領職、上院、下院と共和党が占めることから「トリプルレッド」と呼ばれます。
前回の第一次政権の際には議会のねじれがあったため一部でトランプ氏の政策に歯止めがかかっていましたが、今回の第二次政権ではそれがなく、よりスムーズに政策が通ることとなる見通しです。
トランプ氏はトップダウン型のリーダーですから、世界に混乱をもたらす可能性のある政策でもアメリカファーストの名の元に実行しようとするでしょう。
彼がどのような施策を打ち出すのか、大統領就任時には世界が緊張するはずです。
■トランプ氏は自称「関税男」
ではトランプ氏が再び実権を握った後どうなるかですが、まず考えられるのは関税戦争の勃発です。
トランプ氏は自らを「関税男(tariff man)」と称し、関税を自在に操って自国貿易を優位に立たせると主張します。
品目などはほぼ無関係に、中国には60%、その他の国に10%~20%の関税をかけると主張しています。
中国は名実ともに競争相手として認識し好戦的に貿易戦争をしかける意図があるので、これはそれほど不思議なことはありません。
問題はその他の国も関税を上げるということで、同盟国である日本に対しても10%~20%の関税をかけようとしています。
実際に実行するかは分かりませんが、彼ならやりかねないと多くの専門家が指摘しています。
トランプ氏は対日本との関係で円高ドル安への誘導を示唆し、これによって輸出を強化しようとしています。
さらにアメリカ国内では減税によって景気の拡大を狙っていて、これに高関税の影響による輸入品の値上げが重なれば、国内で物価が急上昇するのではとの見方もあります。
そうなるとドルは高止まり傾向になる可能性があり、トランプ氏の目測どおりの結果になるかどうかは不透明です。
今のところ、この点で日本への影響を正確な見通しをもって論ずることは難しく、日銀の植田総裁も「アメリカの出方次第」というスタンスで状況を見守っています。
■自動車方面のリスク
トランプ氏はまた、中国を意識してメキシコで生産される自動車に200%の高関税をかけるとも発言しています。
これほど高額の関税がかかれば、メキシコで生産した自動車をアメリカで売ることはできなくなります。
トランプ氏はアメリカ国内で製造するように誘導するため、自動車の生産拠点が集まるメキシコを標的にしたわけですが、中国だけでなく日本の多くの企業もメキシコに生産拠点があります。
もし本当にメキシコ生産の自動車にこれほどの高関税がかけられれば、日本のメーカーは撤退を余儀なくされる可能性が高いです。
アメリカに生産拠点を移すとしても人件費が高いですし、人件費の安い中国などに拠点を持てば地政学リスクの心配があります。
自動車は日本としても主要産業の一つですから、この問題が大きくなると日本経済への影響も出てくると予想されます。
■防衛方面からの影響
トランプ氏は同盟国に対して防衛費の増額を一貫して求めています。
日本はすでに中国や北朝鮮などの地政学リスクに対して防衛費増額の検討を始めていますが、国内では増税反対論が根強く簡単にはいきません。
トランプ氏の強力な圧力でアメリカに対する「用心棒代」が膨らめば、財政を圧迫して社会保障など他の分野への投資が手薄になります。
一部防衛産業には恩恵があるかもしれませんが、他の産業への投資が手薄になるということも可能性として考えられるでしょう。
■エネルギー方面からの影響
トランプ氏は環境問題への関心が薄い、というよりは関心が無いと言われています。
環境への配慮よりも競争力の強化を推進する姿勢で、エネルギー政策の面では化石燃料の利用を抑制するどころか強化する姿勢を見せています。
「掘って掘って掘りまくれ」の合言葉でエネルギー産業界にハッパを掛けていることも知られていますね。
アメリカはエネルギーを他国に頼らずに調達できるので、中東やロシアなど他の国に迎合する必要がなく、強い姿勢を取ることができます。
しかし日本はそうはいきません。
実際にロシア・ウクライナ紛争が勃発した時、日本はアメリカに味方をしロシアが反発、これによりガスなどのエネルギー価格が高騰し国民が疲弊したのは鮮明に記憶しています。
今でもその影響は続いており、この点については日本政府は国民生活を考えて立場の取り様をよく考えるべきだったとの指摘もあります。
日本の立場的に、インドのように全方位外交でどちらにもいい顔を見せるのは難しいですが、交渉の面でも日本は力が弱く、どうしてもアメリカに引きずられる様相となってしまうのが残念なところです。
■まとめ
本章では第二次トランプ政権による政策がもたらす日本への影響について考えてみました。
共和党らしい大統領といえばその通りで、多様な考えを認める民主党に対してトランプ氏の主張はかなり攻撃的です。
日本が彼をコントロールすることが不可能である以上、あとはトランプ氏の出方を見て、状況に応じた最善の対応を考えていくしかありません。
日銀の植田総裁だけでなく、石破首相や政府関係者も難しいかじ取りを迫られることになります。