会社運営において経営者にしかできない仕事の一つに資金調達があり、会社の規模を問わず経営上の重要課題に位置付けられます。
余裕のない会社ほど、もっと言えば経営者自身に余裕のないケースほど、「とにかく借りられるだけ借りたい」という姿勢になりがちです。
しかし資金調達にそのような姿勢で臨んでしまうと経営が思わしくない方向に進んでしまったり、余計に資金繰りが悪化してしまうこともあります。
資金調達を考える上では目的とプランを明確にするべきとされているので、本章ではその理由や方法について見ていきます。

■外部資金が多くなるほどリスクも増加する

外部資金が多くなるほどリスクも増加する

全てのケースでそうだとは言い切れませんが、外部からの資金調達にたよることはリスクを伴うので、集められる資金が多ければ多いほど良いと考えるのは危険です。
ただ、資金繰りに窮している会社ほど資金集めに苦労するので、「少しでも多く」と考えてしまうのは仕方がないことかもしれません。
ここでは冷静に考えていきますが、外部資金を募る方法には大きく借り入れと出資の受け入れがあります。
借り入れの場合は返済が必要ですから、借り入れる額が多くなるほど利息の負担も膨れ上がり、返済を焦げ付かせた際の倒産リスクも増大します。
株式発行による出資の受け入れならば問題ないかというとそうでもありません。
株式発行による出資金は返済の必要はありませんが、株式を多く発行するごとに既存株式の持ち分が希薄化します。
株式の乱発は株主の信頼を損ねる行為ですし、株価の下落を招く要因にもなるので、簡単に実行することはできません。
何のために資金調達をするのかという目的が明確になっていない状態で、闇雲に外部資金に頼ることについてはリスクが伴うということをまずは理解しておく必要があります。

■融資相談の際にも目的は必ず聞かれる

融資相談の際にも目的は必ず聞かれる

また金融機関に融資を打診する際には必ずその目的を聞かれます。
金融機関は本質的には事業の内容自体について興味が無くても、貸した金を確実に返してもらえなければ損害を受ける立場です。
ですから何のためにいくら必要で、その資金をどうやって返すのか、という一連の確認をしたいわけです。
「とにかく貸してくれればいいよ。必ず返すから」では全く通用しないことはお分かりですよね。
日常の資金調達で融資を受ける場面は多いと思いますが、資金調達の目的やプランなどは必ず確認されるので、実務上でも明確にしておかなければならないということになります。
ただし一点付け加えるとすれば、目的を明確にする前に必要になるのが資金調達の必要性について認識する工程です。

■目的の前に必要性を察知・理解するのが経営者の仕事

目的の前に必要性を察知・理解するのが経営者の仕事

何のために資金調達するのかを考えるには、その前に資金調達をしなければならない必要性を実感していなければなりません。
どのような場面で資金調達の必要性が生じるか、代表的な例を見てみます。

①資金ショートの回避

例えば日常で資金調達の必要性に気づく場面と言えば資金ショートの危険に気づいた場面でしょう。
経営者としては近い将来にキャッシュが足りなくなると知ったら慌てますよね。
資金ショートの危険を察知して、これを回避するために必要な資金額を算出して資金調達に動く、というのが経営者としての正しい行動と言えます。
問題は資金ショートの危険にどうやって気づくかですが、ここも経営者の気配りや日ごろの経営姿勢にかかってきます。
詳しくは後述しますが資金繰り表を作成してキャッシュの流れを常に監視しておくことが重要になります。

②事業拡大

事業拡大を図るシーンでも資金需要が発生します。
この場合は資金ショートのように差し迫った危険が発生するわけではないので、十分な時間を取って戦略を練ることができるでしょう。
経営者としては事業拡大のプランニングを行う中で必要な金額を割り出し、その調達に動くことになります。

③事業転換

事業転換の場合、事案によっては既存事業の縮小やライバルとの競争に負けて撤退しなければならないなど、望まない形で転換を余儀なくされることもあるかもしれません。
その場合は早期に事業転換の戦略を練らなければならないので、資金確保の面でも迅速性が求められます。
いずれにしても既存事業から新規事業に転換する際にどれほどの資金が必要なのか見定めるのが経営者の仕事となります。

④事業承継

事業承継はこれ自体が大変重要で、かつ難しい問題なのですが、スムーズにいくケースでもそれなりの経費がかかります。
後継者への事業用資産の生前譲渡や相続時にかかる税金、不動産資産の移転にかかる税金や専門家にかかる費用など、事業承継は時間も必要ですが資金も必要とされます。
M&Aで他社に事業を譲渡する場合は相手方企業の信用調査費用もかかります。
最近は事業承継に関して国が力を入れているため、承継を受け入れる、つまり他社を買うという若い事業者も増えています。
事業譲渡を受ける側になれば相手企業の各種資産購入に費用がかかりますから、その費用の見積もりが必要です。

■目的が明確になれば最良の調達手段を検討できる

目的が明確になれば最良の調達手段を検討できる

資金調達の必要性に気づき、目的が明確になれば各種ある資金調達手段の中から最良の手段を検討できます。
資金ショートなど迅速性が重視されるならばファクタリングが最適ですし、少し時間に余裕があるならメインバンクに相談しても良いかもしれません。
しかし融資では担保や保証人を求められますから、提供できる担保や保証人が無ければ別の手段を考えることになります。
ファクタリングは担保も保証人も不要ですからどのような事案でも検討できますが、調達可能額は売掛債権の額に限定されますから、それ以上の資金が必要な場合はファクタリングと担保なしで可能な融資(ノンバンクの融資など)との併用も考えられます。
担保に出せる資産があるならば最初から担保融資を検討できますし、時間があるのであれば売却し現金化して活用することもできます。
半年以上の余裕があれば時間のかかる不動産でも現金化を考えることができます。
またクラウドファンディングでじっくり資金集めをする選択肢もあるでしょう。
このように資金調達の目的と金額がはっきりすれば望ましい調達方法を検討できます。

■資金繰り表を作成するのがお勧め

資金繰り表を作成するのがお勧め

資金調達の必要性が生じる場面は色々ありますが、経営者としては緊急で調達が必要になる資金ショートへの気配りが求められるところです。
上でも少しお話ししましたが、日常の資金の流れを把握してショートを防ぐには資金繰り表を作成するのがお勧めです。
資金繰り表は日常のキャッシュの流れを記載し将来の資金に不足が出ないか予想することができるので、早期にキャッシュ不足になる危険に気づくことができます。
掛け取引を行う事業者の場合、商品やサービスを売ってもすぐに資金を回収できないので、その間に自社の支払いが増える事態が生じると途端に資金ショートの危機が発生します。
資金繰り表を作成していれば、万一イレギュラーな事態が生じそうな場合は事前に察知できるので、予備的に資金確保に動くことができます。
売掛金の回収が上手くできずに黒字倒産ということもあり得るので、掛け取引事業者は資金繰り表を作成して資金ショートの危機に備えるようにしてください。

■まとめ

本章では資金調達の目的とプランを明確にするべき理由やその方法について見てきました。
資金が必要になる原因や理由は色々と考えられますが、どのような場合でもまずは経営者が資金調達の必要性に気づき、なぜ調達が必要なのかを理解したうえでケースに見合った調達方法を考えるということが大切になります。
現実的にも金融機関で理由や目的、返済プランなどを説明できないと門前払いされてしまいますし、無用なリスクを避けて効果的な資金調達を実行するためにも経営者自身の理解が必須です。
これをご覧の方は掛け取引をされている方が多いと思いますので、まずは資金繰り表を作って自社の資金の流れをぜひ確認してみてください。