岸田首相が次期総裁選に立候補しないことを発表する少し前、金融所得課税強化の話題が一時取り上げられたことがありました。
当初、その影響について関係業界が相当ざわつきましたが、円安やその他の話題、岸田首相の立候補取りやめなどのニュースにもまれて話題から遠ざかっていました。
ただこの問題は決してなくなったわけではなく、政府内で議論が進められています。
本章では金融所得課税とはどのようなものか、私たちにどのような影響があるのか、将来予想も交えながら解説していきます。

■金融所得課税とは?

金融所得課税とは?

まずは金融所得課税とはそもそもどういうものなのか簡単に押さえます。
これは読んで字のごとく、株式投資や投資信託などの金融商品から得られた所得に課税するものです。
金融所得課税では20%(現在は復興特別所得税0.315%が追加される)の分離課税方式を取っており、給与など他の所得と合算される総合課税とは異なる仕組みになっています。
私たち一般の国民から見た場合、実際の課税方法としては確定申告をするか、それとも金融機関の口座から自動的に源泉徴収をしてもらうかのどちらかになります。
具体的にみると、金融機関で口座を開設するときの選択肢としては一般口座と特定口座があり、一般口座の場合は利益が出た時の確定申告は必須になります。
特定口座は源泉徴収ありと源泉徴収なしを選択でき、源泉徴収なしを選択した場合は利益が出たら確定申告が必要ですが、手続きが簡略化されるため手間を省けます。
特定口座で源泉徴収ありを選択した場合、税金は金融機関が源泉徴収してくれるので本人は確定申告をする必要がありません。
ただし取引で損失が出た場合、あえて確定申告することで損益通算が可能になり、税金を減らせる可能性があります。
今回は損益通算の詳説は避けますが、ここではまず金融所得には税金がかかり、これを金融所得課税というのだということを押さえてください。

■今般の金融所得課税の話が出てきた理由

今般の金融所得課税の話が出てきた理由

本来の意味での金融所得課税というのは前項で見た通りですが、冒頭で述べた金融所得課税の強化、あるいは世間で騒がれている金融所得課税の強化というのは前項で述べた話題とは少し論点がずれます。
例えば税率を20%から30%に上げるということであれば単純な課税強化という論点で話せるのですが、この話題の本質は単純な税金の話題ではなく、社会保障の枠組みが関係してきます。
問題の本質は、所得の一部が社会保険料に反映されないことがあり、これがために不公平が生まれている現状があるということで、所得を確実に社会保険料に反映させるために仕組みを少し変えようというのが基本概念になります。
わが国では公的医療保険制度が確立しており、大きく分けると以下のように分類されます。

①会社員などが入る被用者保険(協会けんぽなど)
②自営業者などが入る国民健康保険
③75歳以上の後期高齢者医療制度

上記のうち②と③はその仕組み上、確定申告をすることで対象者の全ての所得を捕捉して保険料率の算定に用いることになるので、所得の捕捉漏れが生じません。
しっかり捕捉される分、保険料も高くなります。
この点、①の被用者保険の場合、確定申告をする場合は所得の捕捉が可能ですが、上で見たように確定申告が不要にできる仕組みがあり、確定申告をしない場合は所得を正確に捕捉することができません。
その結果、その分の社会保険料が低く見積もられるということになります。
本人にとってはラッキーとも言えますが、他の人から見ると不公平感があるということで、ここが問題視されたわけですね。
どのような改善の仕組みを構築するかはまだはっきりしていませんが、所得をしっかり捕捉して社会保険料に反映させようというのが、今回の金融所得課税強化の話題の本質になります。

■2025年に具体的な動きはあるか?

2025年に具体的な動きはあるか?

金融所得課税強化と聞いて、「NISAも課税されるようになるのか!?」と不安に思う人もいるかもしれません。
結論から言うとNISAは今回の話題とは関係なく、引き続きルールに則って非課税の恩恵を受けられます。
もしNISAに課税することになれば、国民を騙して投資させたのと同じです。
厚生労働省の幹部もNISA口座における投資については引き続き非課税が守られると答弁していますので、この点は安心して良いと思います。
今回の金融所得課税の強化は2028年までに実施について検討するとされており、まだ課税強化が決まったわけではありません。
投資ブームに水を差す雰囲気は政府も避けたいと思いますから、本腰を入れて検討されるかどうかも分かりません。
2025年内に具体的な動きがでるかどうかも、今のところはっきりと答えるのは難しい段階です。
現在は自民党の総裁選の話題で持ちきりですが、新首相がこの問題にどう取り組むかで方向性が変わってくるでしょう。

■まとめ

本章では金融所得課税とはどのようなものか、国民への影響や将来予想などについて見てきました。
金融所得への課税はこれまでも行われてきましたが、一部社会保険料への反映がされないことの不公平を是正するために出てきたのが今回の金融所得課税強化の話題です。
現在はまだ大きな議論にはなっていませんが、将来的に本格検討されることになれば被用者保険に加入する人に影響が出そうです。
新首相誕生後しばらくするとこの話題がクローズアップされる時期が来ると思いますので、ぜひ注目したいところですね。