あらゆる業界で人手不足が深刻化する中で、人材の確保や流出阻止に苦労する経営者が増えています。
被雇用者は不都合があれば会社を辞めるという選択肢があるので、働く環境に不満があれば割と簡単に辞めてしまいます。
経営者としては職場環境を整備して無用な離職を避けられるように工夫が求められるところです。
本章では職場環境を整備することの意義や、社員がどのようなことでストレスを感じるのか、その要因や改善法などと共に見ていきます。

■職場環境とは?

職場環境とは?

まず職場環境の定義について押さえておきましょう。
必ずしも明確な定義があるわけではありませんが、社員が働く環境をかなり広義の意味で捉えるものと解釈できます。
例えばその社員が座って作業する狭いエリアだけを指す言葉ではありませんし、照明や風通しなどハード面の環境だけを指すものでもありません。
そうしたものもすべて含んだうえで、さらに人間関係なども含めたかなり広範囲を捉える言葉だと理解してください。
社員は一日の大半を職場で過ごすため、職場環境が悪いと体調を崩したり、そのために生産性が落ちてしまうことがあります。
これが長引くと離職ということにつながってしまうので、職場環境の整備は経営者が気を使わなければならない問題です。
逆に職場環境がよく整備され社員のやる気が上がれば、生産性の向上につながり離職もさけることができます。

■職場環境の整備は事業主の責任

職場環境の整備は事業主の責任

職場環境の整備は経営者にその責任がかかってくるものですが、法律上でも一定の義務が課されています。
例えば労働契約法では安全配慮義務が事業主に課されており、この中に職場環境配慮義務があります。
社員が安全に、安心して働ける環境を整えることが事業主の義務として明記されています。
また労働安全衛生法に戻づく指針では、以下のような視点で一定の措置を講じることを求めています。

①作業環境の管理

これは室内の気温や照明、騒音などの影響を考慮して、社員が働きやすい環境を整えてくださいねというものです。
外的な環境整備ということで比較的分かりやすいと思います。

②作業方法の改善

腰や首に過度な負担がかかる作業や不自然な姿勢が続く作業、緊張が続く作業や高温の環境下に晒される作業、重い物を持ち運ぶ作業など、体に負担が大きくかかる作業については、その作業方法の改善を図ることが求められます。

③疲労回復のための施設整備

休憩室やシャワールーム、運動施設など疲労回復に資する設備を整備することで、社員の疲労を和らげることができます。
社員専用のカフェテリアなどを整備する会社も最近増えてきましたね。

④その他施設

労働に直接使用される部屋だけでなく、会社にはトイレや洗面所、給湯室や食堂などの施設が設けられます。
こうした施設も衛生的で使いやすい環境を整えることが求められます。

■社員のストレス要因は?

社員のストレス要因は?

ではここで、社員がどのようなことにストレスを感じるのか見てみましょう。

①作業環境

まずは直接的に大きな影響を及ぼす作業環境です。
室内の温度や湿度、風通しなどの換気が適切に保たれていなければ、ただそこにいるだけでも不快に感じます。
さらに仕事として作業を行うためにはそれに適した環境づくりが必要です。
少し前に大手配送業者の現役社員が倉庫内の温度が高すぎて体に変調をきたしたとしてストライキを行ったニュースがありましたが、彼曰く倉庫内は常に気温が40度を超える状態だったようです。
例え一時的にでもこのような環境では健康に影響が出る危険があるので、速やかに処置を講じることが求められます。

②仕事の絶対量や適性に見合わない仕事

仕事の絶対量が多く処理しきれない分量を押し付けられる例はよく聞きます。
また経験の浅い社員に対し、不相応に責任の重い仕事を任せると、多くの場合ストレスに感じます。
昔は責任の重い仕事を無理にでもこなすことが成長につながるとされた時代もありましたが、今はそのような考えは通用しません。

③同僚や上司との関わり

職場の人間関係は現代人の悩みごとの大きなウエートを占めます。
職場の人間関係が良好であれば業務がよく回り、本人も「仕事が楽しい」と感じられるでしょう。
しかし事の大小はあるとしても人間関係で何らかの問題が潜在的に生じている会社が多く、社員としてストレスに感じる人が多いのも事実です。

■社員のストレス改善方法

社員のストレス改善方法

では社員のストレスをどのように緩和すれば良いのでしょうか。
ここでは経営者が考えるべき対策について見ていきます。

①作業環境の整備

まずハード面では直接的に社員のストレスに作用する作業環境の改善を意識しましょう。
室温や湿度、換気や騒音への配慮などは数値や感覚で把握しやすいので、問題の把握や改善策の提示が比較的しやすい項目です。
作業室内だけでなく、休憩室なども清潔を保ちいつでも安心して使える環境を整備しましょう。

②仕事の質や内容を見直す

仕分けなどごく単純な作業の場合は難しいですが、仕事の内容によっては本人の自由度を増したり、裁量を与えることができる場合があります。
裁量を有する管理職などは困難な仕事を背負っても積極的に取り組めることや、仕事に対するモチベーションが落ちにくいことが知られています。
一般の従業員が受け持つ仕事でも一定の裁量を与えられる余地があり、うまく機能すると社員のストレスが緩和され、さらにモチベーション向上につながることも期待できます。

③教育環境の整備

社内における教育環境が整っていると、持続的、安定的に社員のスキルアップにつながります。
これにより仕事に対する社員の適性が担保され、ストレスのない職務遂行が可能になります。
キャリア教育にもつながるので、社員としては自分が成長できる環境を実感でき、離職防止にもつながります。

④itツールの活用

どこかの自治体でまだフロッピーディスクが使用されていることが露呈し、世間でちょっとした騒ぎになったことがありました。
古い体質だとこうしたものも前例主義で刷新されないのだと思いますが、非効率なままの体制だと社員の手間が増加してストレスになります。
業務改善に必要なitツールは積極的に導入し、社員の手間を省けるようにしましょう。
新しいツールを導入すると使い方が難しく感じてストレスになる社員もいるかもしれません。
使い方のレクチャーも含めて導入を図ってください。

⑤メンタルヘルスへの配慮

社員は仕事関係だけでなくプライベートでも色々と事情を抱えています。
様々な事情が積み重なって心に変調をきたす例は普通にみられますから、メンタルヘルスへケアは欠かせない時代になっています。
定期的に精神保健福祉士などによる聞き取りや相談ができる支援があると社員は安心できるでしょう。
こうした専門家を活用した純粋なメンタルヘルスケアも有用ですが、外部の専門家に頼らず社員同士で忌憚のない不満を言い合える環境があれば外部に頼らずに問題を解決できるかもしれません。
お互いに不満を言い合える環境があるだけでストレス発散になりますし、そこから現状の問題点を捉えることができます。
例えば「エアコンがカビ臭くてたまらない」という訴えが上がれば、会社が問題解決に動くことができます。
結果として職場環境が改善し、会社全体の生産性も向上します。

■まとめ

本章では社員がストレスを感じる要因や改善法、また職場環境を整備することの意義などについて見てきました。
社員がストレスを感じる要因は実際多岐にわたりますが、職場で感じるストレス要因は上で見たようなものがあります。
事業主が職場環境を整えることで多くのストレス要因を廃除することができ、社員が気持ちよく仕事に打ちこめる環境を作ることができます。
社員にアンケートを取って不満を拾い上げることも有効ですので、ぜひ職場環境改善の方向性を探ってみてください。