近年、我が国の政府機関としてデジタル庁が発足するなど、従来のアナログ的手法からの転換を促進する機運が高まっています。
デジタル化、IT化は多方面で進められており、この波は今後も加速していくことは確実です。
決済システムの分野においてはキャッシュレス化が進められているところですが、世界を見渡すと日本のキャッシュレス化は遅れていることが指摘されています。
本章では日本のキャッシュレス化が世界と比べてどうなっているのか、現状や課題を捉えながら今後の展望を見ていきます。

日本のキャッシュレス決済の現状

日本のキャッシュレス決済の現状

初めに日本のキャッシュレス化の現状を簡単に押さえておきましょう。
経済産業省がまとめたところによると、日本のキャッシュレス決済比率は約30%となっており、主要な海外諸国が40%~60%代となっているのに比べて低いことが分かっています。
国はキャッシュレス決済比率を2025年までに40%代に向上させることを目指しており、将来的には80%代にまで引き上げることを予定してます。
まずは2025年の大阪万博に向けてキャッシュレス決済の導入をそれなりに高めたい意向が見え、国内需要のみならず海外客のインバウンド需要にも対応したい考えです。

キャッシュレス決済の定義

キャッシュレス決済の定義

ここでキャッシュレス決済の定義についても触れておきます。
国は従来のキャッシュレス決済をクレジットカード、デビットカード、電子マネー、QRコードなどとしていましたが、近年はこれに加えて銀行振込や口座振替も含むものとして解釈しています。
私たちが一般にイメージするキャッシュレス決済というと銀行振込や口座振替は含まないことが多いと思いますが、広義の意味ではこれらもキャッシュレス決済に含まれることがあるということは一応押さえておく必要があります。
国が発表するキャッシュレス決済比率の数字には銀行振込や口座振替も含まれることになるので、狭義の意味におけるキャッシュレス決済の比率はそれよりも低めとして捉えておく必要があるでしょう。

世界と日本でどれくらい差がある?

世界と日本でどれくらい差がある?

現状、日本と海外でキャッシュレス決済の比率にどれくらいの差があるのでしょうか。
一般社団法人キャッシュレス推進協議会が公表する資料によると、一番進んでいるのが韓国で94%超、次いで中国が77%超となっています。
中国がリードしているイメージでしたが韓国がより上を行っているようですね。
日本の隣国であるアジア圏に次いで、カナダやオーストラリア、シンガポール、イギリス、スウェーデン、アメリカ、フランスときてその後が日本(24.2%)となっています。
海外でキャッシュレス化が進む理由はそれぞれ個別の事情があり、韓国では事業者の脱税防止や消費活動を活発にさせる目的で政府が後押ししたようです。
中国では偽札問題への対処や現金にかかるコストなどの課題に対処する意味が大きかったようですね。
中国では海外からきた旅行客が現金を使えずトラブルになる例をマスコミ等で見聞きしますから、旅行や出張で出向く際は注意が必要です。

なぜ日本で浸透しないのか

なぜ日本で浸透しないのか

同じアジア圏で身近な国がキャッシュレスの先進国となっているのに対し、日本は明らかに出遅れている感があります。
なかなか浸透しないのには以下のようにいくつか理由があると見られています。

①キャッシュレスへの不安

これまで現金を信用してきた層からすると、現物を手にして目に見ることのできないものに不安を覚えるのは自然かもしれません。
便利だということは承知していても、漠然とした不安から手を出すことに心理的不安を覚えるのでしょう。
また現物が目に見えず資金管理がしにくくなることから、お金の使い過ぎを心配する声も聞かれます。
カードなどの盗難を心配する声もありますね。
いずれも対策は取れるものですが、不安や心配以上の強いメリットを感じないので手を出さないということなのでしょう。

②現金の信頼性が高い

国際為替的にも日本円は信頼されていますが、もっと根源的に紙幣、硬貨という視点で見ても現金は信頼性が高いと言えます。
日本では偽札が問題になる事はほとんどないので、安心して使うことができるため海外のように現金の信用低下のために代替手段を取る必要性がさほど高くないと言えます。

③治安が良く盗難のリスクが低い

現金の弱点としては盗難にあうリスクが挙げられます。
財布の紛失程度であればまだいいですが、自宅のタンス預金が盗難にあうとかなりの被害を受けます。
近年は組織的な窃盗や強盗が多発して問題になっていますが、それでも海外と比べれば治安はかなりよく、盗難などの被害に会うリスクは高くないということで、比較的安心して現金を保管できます。

④ATMの浸透

国内では金融機関はもとより、それ以外の色々な施設にATMが整備されています。
必要な時に気軽に資金を引き出せるので、現金の利便性は非常に高いと言えます。

それでもキャッシュレス化の推進が必要とされる理由

それでもキャッシュレス化の推進が必要とされる理由

普段から現金派の人はあえてキャッシュレスに手を出さなくてもいいと考えるかもしれませんが、国全体の将来を考えるとキャッシュレス決済の推進はやはり必要かもしれません。
まず目先の事情で訪日する海外客の利便性を考えると、彼らの多くはキャッシュレス決済に慣れている人が多く、これに対応するためにもキャッシュレス決済が可能な環境をぜひ整えていきたいところです。
訪日客だけでなく、国内における日常の決済場面でも昨今の人手不足に効果的に対処する手段としてキャッシュレス決済は有効です。
タンス預金の盗難リスクと同様に事業者の目線でも盗難や強盗のリスクがあり、こちらは金額が大きいのでそのリスクはかなり大きいと言えます。
現金を扱わなければ盗難や強盗のリスクが無くなるので安心して事業に専念できるでしょう。
またデジタル処理により計算ミスなどが起きませんから、帳簿処理の手間も軽減します。
キャッシュレス決済は個人よりも事業者への恩恵が相対的に大きいと評価できます。

今後キャッシュレス決済は間違いなく拡大していく

今後キャッシュレス決済は間違いなく拡大していく

海外諸国と比べると今のところはまだ国内での浸透は進んでいないという評価ですが、今後はキャッシュレス決済が間違いなく広がっていくでしょう。
キャッシュレスに抵抗のある高齢層が減少し、抵抗の少ない若い層が増えるにしたがって拒否感は薄れていくでしょうし、政府が様々な視点からキャッシュレス決済の拡大を図っていく姿勢ですから、ベクトル的に衰退することはまず考えられません。
店舗等でのキャッシュレス決済導入には個別の事情でハードルがあるケースもありますが、事業者がキャッシュレスを導入できるように様々な支援がなされてます。
また税制面で優遇したり、補助金を出すなどして積極的に支援がなされているのでぜひ活用したいものです。
国が自治体などと連携し、消費者教育という形でキャッシュレスの不安を取り除く施策なども行われているようですので、一般消費者の方も身近にそのような環境があればぜひ参加してみましょう。

まとめ

本章では日本のキャッシュレス化について、現状や課題などを見てきました。
海外と比べると相対的に浸透が進んでいない現状があり、これは裏返せば現金の信頼性の高さや利便性が良いということなので、これ自体は悪いことではありません。
ただ今後は社会情勢的にもキャッシュレス決済の浸透が望まれるところであり、国も力を入れて推進しています。
まだ現金しか使っていないという人も、今後の潮流に乗り遅れないために仕組みなどについては情報を集めておくようにしてくださいね。