国内経済は日銀主導のゼロ金利政策解除や経済界の努力による賃金上昇などで盛り返しの兆しも垣間見えますが、世界の中で捉えるとなお円安の影響が強く響いています。
為替の問題は他国との兼ね合いがあるので、国内だけでどうこうできる問題ではありません。
この回では円安の状況と、この影響を受けやすい業種について見ていきます。

円安の状況

円安の状況

円安はかなり長期間継続して続いており、影響を受ける事業者は苦しい状況が続いています。
インバウンド需要で海外客が訪れるようになってからは観光業などで恩恵が見られるようですが、他にも輸出をメインに行う業種に恩恵がでます。
安い日本の製品は他国製品と比較して価格競争に勝ちやすく、日本の製品がいっぱい買われることになるからです。
しかし逆に円安は輸入をメインに行う業種にとって痛手になります。
輸入企業は海外の製品を輸入する際に基本的に日本円で支払いますから、円が安いと同じ金額でも少ない量しか輸入できなくなります。
仕入れのために輸入をする場合、これまでと同じ経費で調達できなくなるので、仕入れ経費が増大することになります。
これを製品やサービスに価格転嫁できればいいですが、これが簡単にはいかないので苦労するわけですね。

円安の影響を受けやすい業種は?

円安の影響を受けやすい業種は?

では円安の影響を受けやすい業種について見ていきます。
円安の影響を受けやすいのは輸入をメインに行う企業で、ここでは2020年の国民経済計算の指標を参考に輸入比率が高い業種を見てみます。
これによると、鉱業、食料品、繊維製品の業種で輸入比率が高くなっています。
鉱業は石油の元売りや小売事業者などが入る業種で、日本はエネルギーのほとんどを海外に依存する国ですから、輸入比率が高いのは当然と言えます。
現在、政府が助成施策をとっているのでガソリン価格は多少抑えられていますが、それでも価格が高くて生活に響いているという人は多いでしょう。
もし政府のテコ入れが無ければ燃料価格が高騰し過ぎて、事業で燃料を使う事業者の廃業がかなり増えると思われます。
燃料については国策としてこれからもテコ入れを続けていく必要があるでしょう。
また日本は食料についても海外依存度が高くなっています。
農地政策で主食であるコメは国内で調達できますが、その他の多くの食品を輸入に頼っているのが実情です。
特に国内での消費が多い小麦などは、ロシア・ウクライナ紛争ぼっ発当初から急激な値上がりを見せ混乱が生じましたね。
他には食用油なども輸入依存度が高く、日本は国内だけで食料を自給できる力がないため、どうしても輸入に頼らなければなりません。
これについては食料安保政策として課題に挙げられており、今後の政府の取り組みが期待されるところです。
繊維製品についてはアパレル業者などが入る業界で、一見して円安とは関係ないように見えるかもしれませんが大きな影響があります。
日本は綿がつくられていますが、その原料になる綿花は輸入品を利用しています。
ポリエステルなどの化学繊維は石油を原料に作られており、これも輸入に頼っています。
繊維分野も輸入依存度が高い業種で影響を強く受けているのに加えて、国内で原料から製品を作る過程でも高騰している電気代がかかりますから、かなりのコスト増になっていることが伺えます。

帝国データバンクの調査から

帝国データバンクの調査から

もう一つ別の調査も見てみましょう。
帝国データバンクが2022年7月に実施した調査で、全国2万5723社に聞き取りを行い、1万1503社から回答を得たものです。
この中で、円安の影響を受けていると答えた業種は繊維・繊維製品・服飾品卸売で87.6%、専門商品小売で83.9%、飲食料品で83.3%、飲食店で83.0%、飲食料品卸売で82.4%となっています。
こちらは上で見た国民経済計算の指標と業種のくくりが異なりますが、繊維・繊維製品・服飾品卸売は上で見た「繊維」に相当します。
こちらの調査では特に飲食関係が目立ちますが、どのような理由で影響を受けているのか主要なものを挙げると以下のようになります。

・原材料価格の高騰でコスト負担が増えた
・燃料価格の上昇でコスト負担が増えた
・増加したコストを販売に転嫁できず収益が減った
・増加したコストを販売価格に転嫁した結果客離れが起きて売り上げが減った
・消費者の買い控えで売り上げが減った
etc

こちらは原材料や燃料価格が高騰してのダイレクトな影響と、価格転嫁面で二次的な影響の声が聞かれます。
ということで、本記事では二つの調査データをお借りしてみたところ、円安の影響を受けやすい業種には鉱業、食料品(飲食方面含む)、繊維・服飾関連、専門商品小売など5つの業種が挙がりました。
調査の種類によって多少結果は変わってくると思いますが、いずれにしても円安は様々な業種に影響を及ぼしているようですね。

今後は円高に向かうか?

今後は円高に向かうか?

今後、日本円が円高に向かうかどうかですが、これは正直予想するのは難しいです。
日本経済は回復基調に入りかけているという分析もあり、賃金と物価の好循環が生まれれば期待感から円高に向かうかもしれません。
その期待は最近の株高にも見えますので、今後の本格的な経済回復に期待しましょう。
ただ、円高に向かうとしてもそれは将来の話で、しばらくは円安が続くと思われます。
円安の影響を受けやすい業種はしばらく警戒を続けてください。

まとめ

この回では円安の状況や円安の影響を受けやすい業種について見てきました。
しばらく円安は続くと思われますので、今回見てきた業種の方々はしばらくの警戒が必要です。
価格転嫁が難しい業種もあると思いますが、可能な範囲で商品やサービスの価格を上げる検討も必要です。
現在は国民の意識としても必要な価格転嫁は止む無しという機運が浸透していますので、納得できる範囲ならば主だった客離れを避けられるでしょう。
厳しい状況ではありますが、経済の本格回復まで何とか耐え抜いていきましょう。